第135話 可能性の世界 その5
仕方なく、俺はエルナを探して家の周囲を歩き回る。
家の周囲も……完全に俺の村そのものだった。
まぁ……エルナは一度俺の村を訪れている。だったら、村の様子が幻の中に再現されていてもおかしくない。
しかし……村の周囲にはエルナの姿はないようだった。
「おぉ、ロスペル。何をしておるんじゃ?」
と、誰かの声が聞こえてきた。
「……アンタは、村長か」
見ると、それは……俺の村の村長だった。かつて、俺を殺人鬼呼ばわり……いや、それは事実なのだが。
「どうしたんじゃ? ウロウロ歩きおって……エルナはどうした?」
「あ……ああ。その……エルナを探しているんだ」
なんで幻の中で話しかけられなくてはいけないんだと思いながらも、俺は対応する。すると、幻のはずの村長は大きくため息をつく。
「ロスペル……エルナはお前には勿体無いほどの子じゃ。もっと丁寧に扱え」
「あ……ああ」
そういって、村長は去っていってしまった。なんで幻の中で説教されなくてはいけないのだか……
……しかし、考えてみればリザを殺さなければ俺も村長にこんな風に話しかけられていたのだろう。
そう考えると……少し悲しい気分になってくる。
「……いやいや。ダメだ。これは幻……さっさと元の世界に戻らねば」
俺はそう自分に言い聞かせて足早にエルナの捜索を再開する。暫くの間村中を探し回ったが……どこにもエルナがいない。
俺は段々と不安になってきた……エルナが見つからなければこの幻の世界から抜け出すことはできない。
だから、どうにかしてエルナを探しださなければいけないのだ。
しかし、村の中にはどこにいない……どうすればいいのか。
「……まさかとは思うが」
俺はふと、ディーネの言っていたことを思い出した。
これはエルナだけの問題ではない……という言葉だ。
最初は村の様子を知っているのは、エルナの幻であって、それは、エルナが村の様子を知っているからだと思っていた。
しかし……よく考えてみると、あまりにも村の様子が詳細すぎる。
さすがに一度見ただけでここまで詳細に村中を覚えていることなんてできるか……いや、たぶんできないだろう。
つまり……
「……この世界は……俺自身も影響を与えているわけか」
そう考えると、エルナがいそうな場所は……なんとなく想像できた。
というか、もし俺の考えが当たっているならば、エルナがいる場所はそこしかない。
「……仕方ない。行くか」
俺はそう思って、村の外れ……俺とリザの思い出の場所に向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます