第121話 安心できる場所 その1

 エルナがそう言ってから、しばらく俺と奴の間には、完全な沈黙が流れる。


 ……一体コイツはなんと言ったのか。


 正直、理解できなかったし……理解したくなかった。


「……えっと、どうした?」


 俺は思わずそう訊ねてしまった。


 エルナは少し困った顔で俺を見てから、なぜか申し訳なさそうに目を逸らす。


「だ、だから……その……姫様はそういう対象として見られないのだろう? わ、私はどうか、と聞いているんだ……」


 なぜか喋っている最中から声が小さくなっていく。なぜコイツは話を切り出したのに、弱気になっているのだろうか。


「……そういう目で、見られたいのか?」


 俺がそう言うとエルナは顔を真っ赤にする。そして、少し不機嫌そうな目で俺のことを見る。


「……ま、まるで私が……変態だと言いたいような……言い方だな」


「え……違うのか?」


「ち、違う! お、お前なぁ……わ、私は別にお前のことが好きとか、そういう意味でこんな恥ずかしい事を言っているのではない」


 なぜか、観念したかのようにエルナはそう言う。どうやら、単純に発情シているわけではないようなので、俺は話を聞くことにした。


「……なんだ。どういう意味で言っている?」


「……前に、皇帝の暗殺の話があっただろう? 私は……皇帝が今どんな状態なのか知っている」


 そう言われて俺は何も言えなかった。ウルスラが言っていたこと、そして、ウルスラがリゼに興味を持っていた理由……


「……人形、なのか? リゼと同じように」


 すると、エルナは少し自嘲気味の笑みを浮かべながら俺を見る。


「いや……皇帝……仮にも我が父は、少し強欲過ぎたらしい。奴は……不死身の身体を手に入れようとしたばかりに、逆に不自由な身体を手に入れたようだ」


「……つまり、リゼのような……完全な人形ではないということか?」


 俺がそう訊ねると、エルナは何も言わなかったが、小さく頷いた。


「……私は、姫様を人形にしたお前を許すことは出来ない。だが……姫様があの男のような身体にならなかったことだけは……安心している」

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