第122話 安心できる場所 その2

 そんな重大なことを言ってから、エルナは小さくため息をつく。


 そして、なぜか優しげな笑みを浮かべながら俺を見る。


「姫様は……小さいときから、幽閉されていた……それは、姫様のお父上のご意向によるものだが……その時によく言っていたんだ。いつか、素敵な殿方が、自分を迎えに来てくれる、と……」


 そして、エルナは俺を見る。俺はそう言われてなんだか居た堪れない気分になった。


「……俺は素敵な殿方じゃないぞ」


 俺がそう言うとエルナはムッとした顔で俺を見る。


「そんなことはわかっている……姫様は王族のような暮らしでなくても良い……静かな場所で、可愛い子どもたちとその殿方と暮らしたい、と……」


 エルナがそこまで言ったことで、俺はエルナが何を言いたかったのかをようやく理解した。


「……で、リゼはもう人間の身体には戻れない……子どもも生むことができないから……お前……」


 俺がそう言うとエルナはまた恥ずかしそうな顔をするが、ジッと俺のことを見る。


「決して……冗談で言っているのではない。私は……姫様に差し出せるものがあれば、なんでも差し出す。それだけだ」


 エルナは真剣だった。


 俺はそれを見ていると、先程、少しでも変な風に受け止めた俺自身が馬鹿らしく思えてしまった。


「……そうか。まぁ……それは、リゼが元の身体に戻れないことが、確定したら、の話だな」


 俺がそう言うとエルナも渋々頷いた。


 俺自身も……果たしてその言葉を本気で言っているのか、自分自身でわからなかった。


 本当に、リゼが元の身体に戻れると思っているのか……自分自身でもわからなかった。


「……とにかく、その話はまだ先の話だ。それに、お前だって、反吐が出るほど嫌いな奴と一緒になんてなりたくないだろ? さぁ、リゼの元に戻るぞ」


「ああ……そうだな」


 俺がそう言うとエルナも頷いた。そのまま俺はリゼの元に戻ろうとするのだが……エルナは付いてこない。


「……おい。どうした?」


 俺がそう言うと、エルナはハッと気付いたように俺を見る。


「あ、ああ……そ、その……さっきの話とは別なんだが……もしかして、お前は、私が……未だに私がお前のことを嫌いだと思っているのか?」


「……もちろん。そう思っているが?」


 俺がそう言うと不満そうにエルナは頬を膨らませる……前にも言ったが、こういう態度だけなら、リザに似ているのは……エルナの方だと思う。


「そうか……なら、話は終わりだ」


 そういって、少し怒り気味に目を釣り上がらせたままで、エルナはリゼの元に戻っていく。


 ……やはり、女ってのは忌まわしい出来事から十年経っても俺にはわからないな……そう思いながら、俺もエルナの後をついてリゼの元に戻ることにしたのだった。

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