第120話 心配と杞憂 その4

 エルナは辛辣そうな顔で俺にそう言ったわけだが……コイツがこんな顔をして言うとすると……リゼのことだろう。


 おそらくコイツが前に言っていた「リゼに近づくな」という言葉……確かに俺はあれを破ってしまっている。それをコイツは怒っているのだろう。


「……分かっている。俺だって、リゼには申し訳ないと思っているさ。でも、もう……」


 俺はエルナが質問する前にそう言った。


 我ながら情けないセリフだとは思ったが、そう言った。実際、俺にはリゼを元に戻す方法がわからないのだから、こう言うしかない。


「そうか……姫様に対するそういう思いは今はあるんだな」


「……ははっ。情けない話だがな。でも、リゼは俺に……いなくなってほしくないと言ってきた。意外だった……お前には言うけど、ウルスラからは自分と一緒に来ないか、って言われてたからな」


「何? マイスターが……あの手紙はそういう意味か」


「ああ。その後、リゼが部屋にやってきて、俺にいなくならないでほしいと言われた。だから、俺は残った」


 俺がそう言うと、エルナは少し目を丸くして俺を見た。


 それから腕を組んで少し考え込む。おそらく、リゼの態度もエルナは理解したのだろう。


「……そうか。姫様がそんなことを」


「ああ……俺には勿体無い言葉だよ。本当に」


 俺はエルナに苦笑いすることしかできなかった。エルナも先程までの殺気はなく、いつも通りの感じで俺のことを見ていた。


「そうか。ならば問題ない。私はてっきり、お前が姫様にまた何かしたのかと」


「はぁ? あのなぁ……いや、もちろん、リゼの身体のこともあるが……俺はリゼのことをそういう対象には見られないよ」


「何? そうなのか?」


「当たり前だろ……大体年齢だって離れているし……」


 俺がそう言うとエルナは何かを理解したようだった。なんだか……少しまた様子が変だった。


「……そうか。そういうことなら、問題ないな」


「ああ。だから、もういいだろ? リゼの所に戻ろうぜ」


「待て」


 と、俺がエルナに背を向けると、エルナが俺にそう言った。


「なんだ? まだ何かあるのか?」


 俺が振り返ると、エルナはなぜか少し恥ずかしそうに俺から顔を逸していた。


「その……姫様は、そういう対象には、見ないんだな」


「あ、ああ。そう言っただろ?」


 俺がそう言うとエルナは思い詰めた顔で俺の方に近づいてきた。いきなり距離を詰められたので、俺は思わず身をかわしてしまう。


「な……なぜ、避ける!?」


「は、はぁ? お、お前こそ……どうしたんだ?」


 俺がそう言うと、エルナはハッとしたようで、少し落ち着きを取り戻し、恥ずかしそうにしながらも、先を続けた。


「だ、だから……私は……どうだ?」


「え? な、何が?」


「だ、だから! 私は……そういう対象に見ることができるか、と聞いているんだ!」

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