第119話 杞憂と心配 その3

 俺がそう言うとエルナが冷たい視線で俺を見る。


 どうせ、また俺がろくでもない奴だと思っているのだろう。


「まぁまぁ……大丈夫です。きっと、お願いすれば乗せてくれますよ。ね?」


 そういうのはさすがはお姫様である。その通りだとまさにいいのだが……


「……とにかく、さっさとそのシコラスとやらの島に渡って、姫様の身体をどうにかしないとな」


 エルナがそう言うと、リゼは少し残念そうな顔で俯いた。


 昨日俺にリゼが言ったこと……俺はそれを思い出してリゼの反応を理解した。


「……姫様?」


 その反応を理解してないのは……エルナだけのようだった。


「え……すいません。エルナ……」


 エルナはリゼの反応が未だに理解できないようで、怪訝そうな顔でリゼを見ている。


 そして、リゼがチラチラと俺の方を見ているのを理解できたようで、怪訝そうな顔がしかめっ面になる。


「……おい、ロスペル。お前、ちょっと来い」


 エルナは立ち上がると、俺に付いてこいと合図をした。


 俺は反抗することなく、小さくうなずき、同じように立ち上がった。


「え……エルナ、ロスペル様は何も……」


「ええ、分かっています。分かっているからこそ……話し合うのです」


 エルナは鋭い視線で俺を見る。それはまるで……獲物を狙う狩人のような顔だった。


「……ああ。そうだな」


 俺は短く腰元の短剣を触った。クラウディアの件でおとなしくなったかと思ったが……さすがは暗機隊の一員であっただけはある。


 俺とエルナは心配そうなリゼを残して、リゼの視線が届かない、少し離れた場所へと移動した。


「……で、話ってのは?」


 リゼの視界から完全に離れた後で、俺はエルナに訊ねる。


 エルナは振り返って、俺のことを見る。


 正直……コイツとやりあって、勝てるかどうかは微妙だった。


 俺は戦場では確かに人を殺しまくった。しかし、特別な訓練を受けていたわけではない。


 一方でエルナは帝国配下の隠密専門部隊の暗機隊……プロとアマチュアの戦いのようなものだ。


「……お前に聞きたいことがある」


 エルナは辛辣そうな顔で俺にそう言った。

 

 俺は思わず少し身構えてしまったのだった。

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