第114話 優しさの理由 その1
「……なんだって?」
「言葉の通りさ。僕は帝国の研究者だよ? そして、僕にとっては君は帝国に連れて帰りたい存在なのさ。だから……今すぐこの家を出てテンペスに僕と向かわないかい?」
ウルスラは相変わらずニヤニヤとした……それこそ、シコラスそっくりの表情をしていたが……冗談を言っているようには見えなかった。
本気で、俺と二人でテンペスへと行こうとしているようなのであった。
「……はっ。冗談キツいぜ」
俺は思わずそう言ってしまった。ウルスラはキョトンとした顔で俺を見る。
「お前と二人で? ……百歩譲って、フランチェスカとなら一緒に行ってやってもいいぜ」
「ほぉ……君はフランチェスカみたいなのがタイプなのかい?」
「……お前よりはマシだって話だ。いいか? 俺はお前を信用していない。それなのに、お前と二人きりで行動するなんて危険すぎる。だから、お断りだ」
俺がそう言うとウルスラはニンマリと微笑んだ。コイツは……何かまた企んでいることがあるようである。
「……そうかい。まぁ、気が変わったら言ってくれ。おそらく、君の気は変わると思うけど」
そう自信満々に言って、ウルスラは俺の部屋から出ていった。
気が変わる? あり得ない話だ。ウルスラと二人きりで、リゼを置いて出ていってしまうなんて……そんなの……
しかし、俺の脳裏にはウルスラが言った言葉が思い浮かぶ。
仮にシコラスに出会ったとしても……リゼを元に戻す方法なんて知らないのかもしれない。
そもそも、弟子のウルスラが魔人形生成に失敗しているのだ。シコラスだって知っているかどうか相当怪しいものである。
俺は再びベッドに腰掛ける。リゼに……本当のことを話してしまったほうが良いのだろうか。
それとともにリゼが悲しんだ時の顔……俺が知っているリザの絶望した時の顔が頭に浮かんでくる。
見たくない……そんな表情はみたくない。
それならば、いっそ――
「……馬鹿か。俺は」
そうしてしまえば、ウルスラの思う壺ではないか……俺はそんな考えを今一度捨て去って、ベッドに横になる。
薄暗い部屋で、何時間経ったか……覚醒しているのかいないのかわからない状態で俺は起き上がった。
その時だった。コンコンと、扉を叩く音がする。
「……ウルスラか」
俺はめんどくさげに立ち上がり、扉を開く。
「残念だが、まだ気は変わってな――」
しかし、扉の前に立っていたのは……ウルスラではなかった。
「あ……お邪魔、でしたか?」
扉の前に立っていたのは……少し困ったような顔で俺のことを見る、リゼの姿なのであった。
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