第113話 変わらない過去 その4

 俺は仕方ないのでウルスラが部屋に入るように扉を開く。


「悪いね。姫様との楽しいお話は終わったのかな?」


「……終わった。というか、お前なぁ……」


「ああ、ミラのことだろ? いやぁ、僕もびっくりしたよ。まさか、こんな辺鄙な土地で生き残っているとはね」


 そう言いながら、ウルスラはベッドに腰掛ける。予想通り……ウルスラは全てご存知だったようである。


「……で、お前……というか、お前とお前の師匠様のせいで、アイツとアイツのお師匠様はこんな所にいるわけか」


「まぁね。でも、仕方がないことさ。敗者が去るのは当然……君も、そのことを理解していれば、恋人を殺さずに済んだのだろうけどね」


 ウルスラはカチンと来ることを言った。今の俺にとっては……相当頭に来るセリフだった。


「……フランチェスカに入れ替えようか?」


 俺はそう言って、短剣に手をかける。ウルスラはヘラヘラと笑いながら俺を見る。


「まぁまぁ、ミラがここにいるということは……そろそろ、目的地のはずだよ」


「……目的地? それって……」


 俺がそう訊ね返すと、ウルスラは小さく頷いた。


「そう。君が師匠のいる島へと船で向かう際に、出向した港町……テンペスが、ね」


 ウルスラにそう言われ、俺は少しずつ思い出していた。


 テンペス……言われてみれば、たしかにそんな名前の町だったような気がする。


 ということは、あの町に行けば、そのままシコラスの住む島にまで行けるということか……


「……なんでお前……分かるんだ?」


 俺がそう言うとウルスラはキョトンとしていたが、たしかに俺がそういう疑問を持つのも当たり前か、という顔をする。


「ロッタが帝国を去った後、一度だけここに来たことあるんだよ。で、近くに港町が会ったことを覚えているわけさ」


「……ちょっと待て。それでよくミラに気づかれなかったな」


「まぁ、彼女も狂っていなければきっと僕に気付いたんだろうけど……完全にロッタを生き返らせることしか頭にないみたいだね」


 馬鹿にした調子でそう言うウルスラ。俺はずっと気になっていることを聞いてみることにした。


「……なんで、死人兵の案は……採用されなかったんだ?」


 俺がそう言うとウルスラは当然だろうという顔で俺のことを見る。


「君は、戦場で片手が吹っ飛んだり、足が片方ないような死体に無理矢理自分の魂を入れられて、もう一度帝国のために戦おう、って言う気持ちになるのかい? それに死体はどうにも保存方法が面倒でね……魔人形作成以上にクリアすべき課題が多かったのさ」


 ウルスラにそう言われ、それはそうかと納得した。


 ただ、だからといって人の魂を、死体ではなく人形に入れて良いのかと言われれば全くそんなことはないと思うが。


「まぁ、とにかくロッタとミラはなんというか……師匠と弟子以上の関係があったみたいだからね。けどねぇ……ロッタは元々死体大好きで、自分も死体になりたいっていったたから……今更蘇らされても、むしろ迷惑なんじゃないかな?」


「……もういい。とにかく、お前ら魔女がおかしいってことはわかった。それに……港町が近いってこともな」


 俺がそう言うとウルスラの目がニンマリと細くなる。


 この目……ウルスラがこういう目をする時はロクなことを言い出さない時だ。


「……なんだよ。お前」


「いやね。そろそろ……いいんじゃないかな、って思うんだよ」


「……何が」


 俺がそう言うとウルスラは決まっているじゃないかという顔で俺を見る。


「どうせ、姫様をもとに戻す方法なんてない……一度人形に定着した魂は、元の体に戻るか……それこそ、魔法でも使わないと引き剥がせない」


 ウルスラは冷静に言う。俺は……何も言えなかった。


 実際……俺だってわからないからだ。リゼをもとに戻せるのか……シコラスならわかるかもしれないとは言ったが……


「だからさ……僕に協力しないかい?」

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