第105話 小さな家 その4

 それから、俺は手持ち無沙汰で部屋の中をウロウロしたり、ベッドに座ったりしていた。


 さすがにいい加減、そうしているのもアホらしくなってきたので、メイドが淹れていった紅茶に手をつけることにした。


 とっくに冷めているが……これを飲んで眠ることにしよう……そう思った矢先だった。


 コンコン、とドアをノックする音が聞こえてくる。


「……誰だ?」


 俺が扉に向かって呼びかける。


「……ロスペル様。私です」


「……ああ、リゼか」


 俺が声を確認してから扉を開ける。その先には不安そうな顔のリゼが立っていた。


「……すいません。こんな時間に」


「いや、いいさ。別に」


 そもそも、リゼがこんな時間まで起きているハメになったのは……俺のせいである。


 それならば、例え眠っていたとしてもリゼの相手をしてやるくらいのことはしたほうがいいだろう。


「その……少しお話をしてもいいでしょうか」


「ああ、部屋に入ってくれ……というか、よくエルナが許したな。俺の部屋に来ること」


 俺がそう言うと、リゼは不安そうな顔で俺を見る。


「……エルナが……起きないのです」


「は? なんだって?」


 リゼはそう言って、更に不安そうに表情を曇らせる。


「お話をしていたら、急に眠ってしまって……いつもはそんなことないのに……それで、ロスペル様の所に……」


 と、リゼがそういった時だった。ガチャリと、階下からドアが開く音がした。


「え……誰かこの家に……」


 リゼがそう言うと共に、俺はリゼを部屋の中に引き入れた。リゼはキョトンとした顔で俺を見ている。


「ロスペル様……どうしたのですか?」

「……様子が変だ。こんな遅い時間にこんな場所に入ってくる奴なんておかしい。それに……メイドのやつは一体何をやっている」


 何者かが侵入してきたのに、メイドは騒ぐところか、訪問者に対応もしていない……つまり、メイドは訪問者が来ることを知っていたのだ。


 もしくは、メイド自身が、もしかすると今家の中に戻ってきたのかもしれない。


 俺はリゼに部屋の奥に行くように指示し、扉を少し開けて聞き耳を立てる。


 階段を登る足音は……一つ……いや、二つ……それ以上だ。


「ろ……ロスペル様……」


「なんだ? 大事なことか?」


 俺がそう言うとリゼは窓の外を指差している。俺は窓に近寄っていく。


「なんだ?」


「お……お墓に……穴が……」


 リゼの言うとおり、墓石の前にはそれこそ……死体が這い出てきたかのような穴が開いている。


「……まさか」


 俺がそう思った矢先、扉を勢い良く貫いて、何かが飛び出てきた。


 それは……剣先だった。錆び付いているが、鋭い剣先が、扉を突き破ってきたのである。

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