第104話 小さな家 その3

 あのメイドが誰かに似ている……俺にはそう感じられなかったし、リゼの言うことの意味が、理解できなかった。


「……すまん。俺にはわからん。気のせいじゃないのか?」


 俺がそう言うとリゼはすまなそうに頭を下げた。


 俺たちはその後、メイドに支持された通りに、そのまま階段を上がる。確かに上の階には扉が4つある。


「ほぉ。さすが、メイドがいるだけの家だ。部屋もそれなりにたくさんあるね」


 ウルスラは感心した様子でそう言う。


 俺たちはそのままそれぞれの扉を開ける。


 俺が扉を開けた先にも……確かに普通の部屋が広がっている。簡素なベッドと椅子……本当に普通の部屋だった。


「……しかし、たしかに……」


 ただ……俺も少し気になっていた。


 リゼが感じると言っていた不安……それに関しては、俺も少し感じるのである。


 無論、一体それがなんなのかは俺にも理解できなかったが。


 とりあえず俺はベッドに横になる……さすがに疲れていた。


 既に何日もずっと歩きっぱなし……そんな身体でベッドに横になることはとても幸福なことだと思う。


 しかし……リゼにはそれが感じられない。


 俺の脳裏に、ふと、嫌な感情が沸き起こった。


 疲労感も、それを癒やす幸福感も……俺があんな身体にしまったからリゼは感じることができないのだ……日に日に俺は自責の念が強まっていた。


 もし、俺があんなことをしなければリゼは……


 俺はふとベッドに起き上がる。そして、思わず大きくため息をついてしまった。


「……もう少しだけ……起きているか」


 そういって、俺は部屋の窓から外を見る。家の外にはいくつもの墓石……不気味な光景だ。


 あのメイドもどこか不気味な感じだったし……リゼが不安がるのも仕方がないのかもしれないな……


「……失礼致します」


 と、背後からいきなり聞こえてきた声に、俺は思わず構えてしまった。


 見ると、そこには先程のメイドが立っていた。


「あ、ああ……なんだ?」


「お茶を……用意致しました……どうぞ」


 そういって、メイドは机の上にお茶が入ったカップを置く。


「あ、ああ……ありがとう。そういえば、お前の主人はいつ帰ってくるんだ? 泊めてもらう礼くらいは言いたいのだが」


 俺がそう言うとメイドは相変わらずの不気味な表情で、俺のことを睨む。


「……わかりません。ご主人様からは何も聞いておりませんので……失礼致します」


 そういって、メイドは部屋を去っていった。


「……確かに、不気味だな」


 俺はそう思って、紅茶のカップを見る……どうにもそのお茶も、不気味に思えてきて飲む気にはなれなかった。


「……やれやれ。俺は……一体何をしたかったんだろうな」


 なんとも無責任なことを今更言いながら、、俺は今一度窓の外から、遠くの光景を眺めるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る