第103話 小さな家 その2
「さて、では、この家の住人に挨拶するか」
と、俺とエルナが話している隙に、ウルスラが扉をノックしてしまった。
俺とエルナはしまった、と思ったが、時既に遅し……
しかし……ノックをしても、返事はなかった。
「……留守、なのでしょうか?」
リゼがそう言った途端だった。扉がゆっくりと開く。
「……はい?」
そして、開いた扉の隙間から、掠れた声が聞こえてくる。
「あー……すまない。私達は旅のものなのだ。その……ここらへんには泊まる町もないようで……申し訳ないのだが、家に入れてくれないか?」
エルナが取り繕うようにそう言った。すると、扉がまたしてももう少し開く。
「……少し、御主人様に聞いてきてもよろしいですか?」
「え? あ、ああ。本当にすまない……」
扉の向こうからそんな言葉が聞こえ、そのまま歩いて行く足音……
「……はい。よろしいでしょうか? ええ……わかりました」
どうやら奥で誰かと話しているようだった。そして、再びこちらへやってくる足音。
扉がゆっくりと開き、その先から……一人の少女が現れた。
少女は、酷くやつれている。目にはクマがあり、顔色も全体的に青白い。
おまけに身なりもかなりボロボロ……だが、メイドの服装をしていることから、どうやらこの家のメイドらしい……ということだけは理解できた。
「……どうぞ、お入り下さい」
「悪いね。お邪魔するよ」
メイドがそう言うと共に、ウルスラが躊躇なく家の中に入る。俺とエルナ、そしてリゼは思わず顔を見合わせてしまう。
「……どうぞ」
しかし、メイドのその言葉に促されて、結局俺たち三人も家の中に入ってしまった。
家の中は……酷く殺風景だった。まるでそれこそ、誰も住んでいないかのような……それくらい、生活感のない光景だった。
「遠いところをお疲れ様でした……私、この家のメイドのミラと申します……よろしくお願いします」
とても低調子で、そのメイドは俺たちに自己紹介する。
無論、殺風景なだけで、特におかしな家というわけではない。普通の家という感じだ。
しかし……
「ねぇ、君。この家の主人はどこだい?」
ウルスラが俺の感じた疑問を先に代弁してくれた。メイドは死んだ魚のような目で俺たちを見ている。
「御主人様は……お出かけ中です」
「え……しかし、先程誰かと会話していたように思えたが……」
エルナが怪訝そう顔でそう言う。しかし、メイドはその質問は無視して階段を指差す。
「……お客様用のお部屋は……階段の上でございます」
少し気にかかったが……これ以上メイドにそのことを聞いても仕方ないと感じる。とにかく今は少し休みたい。
俺たちはメイドに言われるままに階段を上がっていく。
「……あの、ロスペル様」
と、リゼが俺に話しかけてくる。
「ん? なんだ?」
「その……なんといいますか……不安なんです」
「え? 不安? 何がだ?」
リゼはそう言って周囲を見回す。
「……この家の中に入ってからどうにも落ち着かないというか……それに、あの従者の方……誰かに似ているような……」
「誰かに似ている……会ったことあるのか?」
「あ……そういう意味ではなく……どこか、雰囲気が……誰かと似ているような……そんな感じがするんです……」
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