第5章 罪の呪い

第102話 小さな家 その1

 そして、三日間程、俺たちは歩き続けた。


「……道は、合っているのか?」


 エルナが不安そうに訊ねる。実際、俺も不安だった。


 ちらりとウルスラを見る。ウルスラは肩をすくめる。


「ごめんねぇ。僕、この国の地理については詳しくないんだ」


 ……肝心な所で役に立たない……そう言うのを我慢して、俺たちは歩いた。


 そして、夜になる。俺としてもいい加減宿屋で休みたかった。


「……よし。次に町があったら、休もう」


 俺がそう言うとエルナとウルスラは頷いた。


「みなさん……大丈夫ですか?」


 唯一、疲れを感じていないリゼだけが不安そうに訊ねる。こういう時は……あまり言いたくはないが、人形の身体というのは逆に良かったのかもしれない。


「それにしても……町なんてあるのかな?」


 ウルスラが不穏な事を言う。たしかに周りには町どころか、建物もないような寂しい場所だった。


「……あ。あそこ」


 と、リゼが嬉しそうな声を上げて指をさす。


 その先には微かにではあるが、小さな明かりが見えたのだった。


 そして、小さいが……確かに家のシルエットのようなものも確認することができた。


「しかし……こんな所に家があるなんて……少し妙じゃないか?」


 エルナが明かりに近づくに連れてそう言う。


 リゼが指し示した明かりは近づいていく間に、それが村ではなく、たった一軒の家であるということが、段々と判明してきた。


「なんだい? エクスナー少尉。こういう辺鄙な所に一人で住んでいるのは、テレーゼみたいに皆どうにも変な奴だって言いたいのかい?」


 ウルスラが茶化すようにそう言う。エルナはムッとした顔でウルスラを見る。


「……そういう意味ではありません。ただ……姫様を危険に晒すわけには……」


 エルナがそう言うと、リゼが安心させるように優しく微笑む。


「大丈夫です、エルナ。確かに周りには何もありませんが……ここから海沿いの港町までの道のりと、一泊だけ留めてもらうだけですから」


 リゼはそう言うが……その一泊泊めてもらうのが危険だというのだ。このお姫様は相変わらずのお人好しらしい。


 そして、俺たちは家の前までやってきてしまった。随分と古い家である。おまけに家の外には……


「お墓……ですかね」


 リゼが不安そうな顔でそう言う。確かに家の前だと言うのに、そこにはいくつもの墓石があった。


「……なぁ、ロスペル」


 と、珍しくエルナが俺に耳打ちしてくる。


「……なんだ」


「怪しい……絶対に良くない奴が住んでいる」


 おそらくテレーゼの件で「辺鄙な所に住んでいる奴はロクなやつではない」という認識が定着したエルナは、うんざりした顔で俺にそう言ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る