第100話 信頼の拒否
「……そうか。よかったじゃないか。お前にはいるんだよ。帰ってきてほしいと願って売れる人が。俺には……いないからな」
俺は別に皮肉を言うつもりではなかった。
しかし……今までそういう生活をしてきたからか、いつのまにかそういう性格になってしまったのか……自然とそれは、厭味ったらしい言い方になってしまった。
俺のその言葉に、エルナは少し申し訳なさそう顔をする。正直、そういうつもりはなかった。事実なのだから。
俺は愛する人を失った。むしろ、自らの手で破壊した。だから、俺には何も残っていないのだ。
「……少しだけだが、私も姫様の言うことを信じたい」
と、エルナは椅子から立ち上がり、俺の方を見た。
その瞳は、これまでの殺意を伴った鋭い視線ではない……俺のことを一人人間として見ている、真っ直ぐな視線だった。
「信じるって……何を?」
「……お前が、もしかすると、その……悪い人間じゃない、ってことをだ」
エルナが真剣な表情……というか、どこか期待するかのような表情で俺にそう言っていた。おそらくそれは冗談ではなかったのだろう。
しかし、俺はそれを聞いて思わず笑ってしまった。
すると、なぜかエルナは少し残念そうな顔をする。
「……忘れるなよ。俺はお前の主人を人形にした。自分の勝手な都合で……そんな男が、悪い奴じゃないわけ、ないだろうが」
悪い奴じゃない……そんなはずはない。
俺はどう考えても取り返しのつかない罪を冒したわけだし、今までも褒められたようなことはしていない。
そんな俺のことを悪いヤツじゃないと思いたい……無論、悪いとは思ったが、俺は自嘲気味に笑ってしまった。
すると、エルナはとても悲しそうな目で俺を見ていた。
悲しい……というよりも、何かとても哀れな物を見るかのような……そんな視線だった。
最後にもう一度酷く悲しそうな視線で俺を一瞥したその後で、エルナは俺に背中を向ける。
「……そうだな。私の……勘違いだった」
そう言い残して、エルナは俺の部屋を出ていった。静かになった部屋で俺は大きくため息をつく。
「……そうだ。俺は……ロクな奴じゃないんだよ」
自分に言い聞かせるようにして、一人に戻った俺は、虚しくそう呟く。
どこか悲しいような……それでいてい寂しいものが、胸に残っていたのだった。
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