第92話 奪還作戦 その3

「……エクスナー少尉もいたね……クラウディアはあっちの方に行ったみたいだ」


 部屋の中が一瞬見えたようで、ウルスラがそう言う。俺ももう一度部屋の方を見てみた。


 ウルスラの言う通り、クラウディアはエルナの部屋から出ると、そのまま廊下の向こうに行ってしまったようだった。


 俺とウルスラはクラウディアが完全にいなくなったのを見計らって角から廊下に出た。どうやらクラウディアはエルナに何か用があったようである。


「さて、エクスナー少尉の居場所はわかったけど……どうする?」


「どうするって、行くに決まっているだろう」


「だけど、クラウディアがあの様子じゃ、彼女は未だにエクスナー少尉に対しての執着を弱めていないようだ。話しても無駄なんじゃないかな?」


 ウルスラの言うことも十分に理解できた。


 しかし、俺の脳裏には、悲しそうな顔でうつむく魔人形の表情が浮かんだ。


「それでも、行かなくちゃならんだろう」


 俺がそう言うとウルスラはキョトンとしていたが、すぐに嬉しそうにニヤニヤと俺を見て笑っていた。


「なんだ。その顔は」


「ふふっ。別に意味は無いよ。さぁ、行こうか」


 俺はウルスラの事は無視し、そのまま先ほどエルナが出てきた部屋へと向かった。


 扉の前に立ち、ノブを握る。そしてそれをそのまま押すと、扉がわずかに開いた。


 鍵は開いている。俺は躊躇うこと無く扉を全開にし、部屋の中に踏み込んだ。


 部屋の中は何もなかった。殺風景な空間である。


 そこの中心に椅子が置かれていて、その上にポツンと、まるでそれこそ人形のようにしてエルナが腰掛けていた。


「エルナ」


 俺が名前を読んでも返事はしなかった。ただ、目だけをこちらに向けて興味なさげに俺を見る。


「ほら。やっぱりダメだよ」


 ウルスラの言葉は無視し、エルナに近づいていく。


「おい。何やってんだ。さっさとここから出るぞ」


 俺がそう言うとエルナはぼんやりとした様子で俺を見ていた。


 瞳はなんだか霧がかかったように濁っていて、俺の話を聞いているのいかいないのか、判別できない。


「おい、エルナ」


「……アナタは、なんですか」


 ゆっくりとした……まるで生気を感じさせないような口調でエルナは俺に訊ねる。


「ロスペルだ。お前が大嫌いな男だよ」


「ロスペル……聞いたことのある名前……でも、思い出せない……」


 どうやら完全に魅了の能力が強まっているようだった。エルナはボンヤリとしたままで不安そうにそう呟く。


「……ロスペル。無理だ。帰ろう」


 ウルスラが残念そうだが、冷徹にそう言った。

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