第93話 奪還作戦 その4
ウルスラは面倒くさそうな表情でそう言う。
そうはいってもこのまま帰ったところで状況は何も変わらない。是が非でも俺はこの間抜けを、リゼの所に連れ戻さなくてはならないのである。
「じゃあ、リゼはどうだ? 覚えているだろ?」
俺がそう言うとエルナは一瞬だけハッとした顔をする。しかし、その後すぐに怯えたような顔で俺から顔を逸らす。
「いや……知らない……その名前は……思い出したくない」
「お前……それでいいのか?」
俺はエルナの肩を強く叩く。いつものエルナからは想像できないような怯えた瞳で、こちらを見てくる。
「怖いのか? リゼが?」
「怖い……違う……もう、嫌なんだ。誰かに捨てられるのは……誰かに嫌われるのは……」
その言葉を聞いて俺は思わず目を丸くしてしまった。そして、その後思わず少し嗤ってしまった。
「な……何がおかしい?」
エルナは俺のことを信じられないという顔で見る。
「ああ、いや……すまん。まさか、お前がそんなことを言うとは思わなくてな」
俺がそう言うと、エルナは少し悲しそうに目を伏せた。しまった……いくら強そうな女でも今はかなり精神が不安定な状態にあるのだった。
「……違う。私は……とても弱い存在なんだ……本当は、姫様にふさわしい存在なんかじゃない……汚らしい、醜い存在なのだから」
「……おい。何勝手なこと言ってんだ」
俺は思わずそう言ってしまった。さすがにそんなことを言うのはどうかと思ったが、言わずにはいられなかった。
エルナは驚いたような顔で俺を見ている。
「お前……リゼがいつ、そんなこと言った?」
「え……」
「リゼはそんなこと、一言も言ってないだろうが。お前のことを嫌いだとか、一緒にいたくないとか……言われてないだろ?」
「そ、それは……姫様が優しいからで……」
「ああ、そうだ。リゼは優しい。けどな、どんなに優しい人間でも、本当に一緒にいたくないときは、はっきり言ってくるもんだ。一緒にいたくない、お前なんか消えろ、って」
少し苦い思いが、俺の脳裏に蘇ってくる。
エルナは俺が言いたいことを理解したようで、少し申し訳なさそうに頭を下げた。
「……言ってない。姫様は……一言も」
「だろ? だったら、帰ろうぜ。リゼはお前に帰ってきてほしいとは言っていた。それでいいじゃないか」
そう。帰ってきてほしい……俺は言われなかった言葉だ。
確かにエルナの境遇は不憫だとは思う。でも、コイツにはリゼがいる……それだけで、俺に取っては恵まれているとは思えるのだが。
「あ~……取り込み中、悪いんだけど……そろそろ戻った方が良いと思うんだよね。あのクラウディアがこんな簡単に僕達をエルナに会わせるってのはどうにも怪しくて――」
「ああ、その通りだな。マイスター・ウルスラ」
その言葉……というよりも聞き覚えのあるよく響く声を聞いて、俺もエルナも、ウルスラも振り返った。
「やれやれ……しつこい男は嫌われると言うぞ? ロスペル・アッカルド君」
そこには軍服姿で凛々しく立つ、魔女クラウディアが立っていたのだった。
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