第91話 奪還作戦 その2
「なるほど。じゃあ聞かないさ。別に興味もないし」
俺がそう言うとウルスラは今度は不満そうに俺を見る。
「そういう言い方は良くないよ? 僕だって女なんだから」
「ふんっ。どうでもいい。そもそも鍵穴を開けられるっていう時点で、その理由なんてあまり聞きたくない」
俺がそういうと苦笑いしながらウルスラは俺を見る。
「まぁね。でも、僕はこのフランチェスカの能力に助けられたんだよね。魔女の研究というものにもお金がかかるからね」
そういってすこし悲しそうにウルスラは俯いていた。
「……だからこそ、今度は僕がフランチェスカを助けなきゃいけないんだ」
そういうウルスラの言葉は、いつものように胡散臭く感じられず、真剣な言葉だった。
どうにもコイツにしても、たまに何か深刻そうな過去があるため、やりにくい感じがある。
「お前、エルナを取り戻したらフランチェスカに入れ替わらせるからな」
「え? なぜだい?」
「……フランチェスカに言ったんだよ。飯を食わせてやるって」
あまり言いたくなかった。どうせ、またウルスラはニタニタと笑うに決まっている。そう思って俺はウルスラを見た。
しかし、そうではなかった。まるで慈愛にあふれた母のように、ウルスラは俺を見ていた。
「な、なんだ。その目は」
「……いや。姫様の言葉、本当なのかも、って思ってね」
「は? リゼの言葉?」
「ああ。君は良い人だってことさ」
そして、ニッコリとウルスラは俺に微笑みかけた。なんだか調子が狂いそうだったので、俺はいい加減本題に戻ることにした。
「とにかく、行くぞ」
そういって今度こそ、クラウディアの屋敷の扉を開いたのだった。
屋敷の中はほぼ……というか、完全な暗闇だった。
ところどころに灯された蝋燭がぼんやりと煌やいているため、足元を見ることが出来たが、なんだか気味の悪い雰囲気だった。
「はぁ。まったく……僕はそもそも、クラウディアは好きになれないんだ」
ウルスラが大きなため息と共に不満そうにそう漏らした。
「大体ね。魔女というのは、あまり人前に出るものじゃないんだ。それなのに彼女は軍の隊を指揮する立場にいる……僕には理解できないね」
ウルスラはとにかくクラウディアのことが気に入らないらしい。無論、俺としてもあまりクラウディアには好感は持てなかった。
あの人の心を見透かしたような目つき、そして、常に浮かべた不敵な笑み……
ウルスラはウルスラで胡散臭くいつも笑っているのだが、どうにもクラウディアはそれとはまた異なる嫌悪感を俺に与えてくるのである。
「で、エクスナー少尉はどこにいるって言っていたんだい?」
「二階の使用人室だそうだ。もっとも、どこの部屋なのかはわからないが」
仕方なく俺とウルスラは階段を上がり廊下を歩く。
二階の廊下にも多くの扉があるのがわかる。これではエルナがどこにいるのかなどわからないのではないか……そう思った矢先だった。
「あ。あそこ」
ウルスラが指さした先。そこの部屋だけ明かりが漏れている。他の部屋はそうではないというのにそこだけ明かりが付いているというのは、どうにも不思議だった。
「あそこ……か?」
「さぁね。あ、ちょっと待って」
そういってなぜかウルスラは俺の手を引っ張り、そのまま廊下の曲がり角まで引っ張っていった。
「なんだ。急に」
「ほら。あそこ」
すると、明かりがついていたドアが開いた。そこから漏れてきた明かりと共に出てきたのは――
「クラウディア……」
ズール帝国の軍服を来た女性……まさしくクラウディアだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます