第90話 奪還作戦 その1

 深夜のリベジスタはまるで、街全体が死んでしまったかのように静まり返っていた。


 俺とウルスラの足音だけが街の中に響く。


 夜の街ならばもっと盛り場があったりしてもいいものである。


 しかし、この街にはそういうものがない。


 家の窓にも明かりはついていないし、人が動いている気配もない。


 唯一、明かりがついていて気配がある場所……それがクラウディアの屋敷だった。


「さて……門番はいないみたいだね」


 ウルスラはそういって屋敷を眺めていた。


「ああ。おそらくいないだろうと思っていた」


「へぇ。どうしてだい?」


「簡単だ。ここにはアイツが魅了した人間しか住んでいない……だとしたら門番なんて立てる必要はないだろう」


 俺がそう言うとウルスラは納得したようだった。


「……とにかく行くぞ」


 俺がそういって歩き出すとウルスラも後についてきた。


 門番のいない門を簡単に通過し、俺とウルスラはそのまま屋敷の敷地内に入る。


 そのまま敷地内を直進し、玄関の扉までやってきた。


 扉のノブを握るとさすがにここには鍵がかかっていた。


「さて……扉をぶっ壊すしかなさそうだな」


「え。そんな乱暴な方法で入ろうと考えていたのかい?」


 目を丸くしてそういうウルスラ。


「ああ。何か問題があるのか?」


「……まったく、仕方ない人だね。君も。仕方ない。ちょっとこの短刀借りるよ」


 するといきなりウルスラは短刀を手にした。また死ぬつもりなのだろうか?


「おい。フランチェスカが何かできるのか?」


「ふふっ。いいかい? 僕達姉妹はね。天才なんだよ。僕は魂を扱う魔術の天才、そしてフランチェスカは……まぁ、実際に見ればわかるさ。フランチェスカが出てきたら、鍵を開けるように頼むんだよ?」


 そう言うとウルスラはいきなり喉を掻っ切った。


 血は出ずにその場に倒れたが、すぐに起き上がり俺のことを見つめる。


「なんだ? ロスペル。姉ちゃんなんか言ってたか?」


 あどけない口調……フランチェスカになったようだった。


「ああ。お前に頼みがある」


「頼み? 飯、くれるのか?」


「ああ。終わったら食わせてやる」


 すると満面の笑みでフランチェスカは俺を見た。


「わかった! で、頼み、なんだ?」


「この鍵を開けてくれ」


 俺がそう言うとフランチェスカは目の前の鍵穴を見つめていた。


「なんだ。そんな簡単なことか」


 簡単。俺がその言葉に驚いているとフランチェスカはいきなりどこからか針金を取り出した。


 そして、その針金を鍵穴に差し込む。そして、しばらくカチャカチャと音をさせたかと思うと、カチャンと、鍵が開く音がした。


「開いた」


「え? 本当か?」


 確かめるようにノブを握ると、本当にドアがすこし開いた。


 俺はもう一度目の前のフランチェスカを見る。


「……なるほど。それで閉じ込められた場所からも出てこられたってわけか。しかしこんな業、どこで知ったんだ?」


 俺がそれを訊ねた瞬間だった。不思議そうな顔をしたかと思うと、先ほど、手にしていた俺の短剣で再びフランチェスカは喉を掻っ切った。


 そして、すぐに立ち上がり、得意げな顔で俺を見る。


「そういうプライベートなことは、ちょっと教えられないなぁ」


 魂は……ウルスラに戻ったようで、いつも通りの胡散臭い口調でそう言った。

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