第89話 非情の理由

 ウルスラはそんな風に感情を爆発させたリゼを驚いて見ていたが、俺は動じなかった。


「そうかな? 人間ってのは案外忘れっぽいものだ。現に俺を見てみろ。思い続けた女に裏切られて、お前を人形にしてしまった……エルナとお前がどんなに互いを思っているか知らないが、案外裏切る時は簡単に裏切るんだよ」


 俺がそう言うとリゼは悲しそうな顔で俺を見た。


 その表情を見ていると辛い気持ちが押し寄せてきた。


 その表情は単純にリザの泣き顔に似ているからではなく、リゼ・フォン・ベルンシュタインの悲しそうな表情という、あまり見たくないものを見せられている……そんな感じがしたからである。


「……酷いです。ロスペル様」


「ああ。お前を人形にした当人だぞ? 酷くないわけないだろう?」


 そういうと限界だったのか、リゼはそのまま立ちあがり、乱暴に扉を閉め、俺の部屋を出て行ってしまった。


 部屋に残された俺とウルスラはしばらく黙ったままだった。


「まったく。どういうつもりだい? あんなに酷いことを言って」


 ウルスラはニヤニヤしながらそういった。


 どうにも、既にこの胡散臭そうな魔女は、俺のしようとしていることをわかっているらしい。


「行くぞ。リゼは部屋で悲しんでくれていればそれでいい。俺とお前で、さっさとあの間抜けを連れ返してくるんだ」


 俺がそう言うとニヤニヤしながらウルスラは俺を見る。


「……なんだ。その顔は」


「いいのかい? 面倒なことになるかもしれないよ?」


 ウルスラがそんなことを訊いてきたので、俺はフッと鼻で笑ってやった。


「別に。俺には失うものがもう何もない。だったら、多少面倒なことになったって構わないさ」


 ウルスラはその言葉を聞いて最初はキョトンとしていたが、すぐにニンマリと気味の悪い笑みを浮かべる。


「ふふっ。素直に言えばいいじゃないか。姫様の悲しそうな顔が見たくない、って」


「……違う。あいつの顔は俺がリザに似せて作ったんだ。正確には、リザに似ているけど全く似ていないアイツの悲しそうな顔が見たくないんだよ」


 俺がそう言うと、はいはい、といい加減な返事をしてウルスラは立ち上がった。


「仕方ないなぁ……ま、僕もクラウディアに話があるから、付き合うよ」


「……別に頼んでないが」


「ふふっ……まったく、君は素直じゃないなぁ。でも、君のそういう所、嫌いじゃないよ」


 薄気味悪く嗤う魔女を見て、俺は苦笑いを返してやった。そして、俺とウルスラは二人で部屋を出たのだった。

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