第88話 取り戻したいモノ その4

「危険すぎる……ですか?」


 リゼが不思議そうな顔でそう尋ねる。ウルスラは頷いた。


 そして、俺とリゼのことをもう一度見て話を続ける。


「クラウディアは確かに将軍としては優秀だった。それはそうさ。彼女のために、彼女自身が命じなくても兵士は進んで戦場で死ぬことを選ぶ。だから人形部隊は最強だった。死を恐れない兵士の集まりほど厄介なものはないからね」


 ウルスラはそう言ってからチラリと俺の方を見た。


「なんだ。俺がどうかしたか?」


「……いやね。殺戮人形なんて言われていた君からして見るとそういう人形部隊ってのはどうなのかな?」


「どう、って……別にどうとも思わない。俺はそう呼ばれていただけで、人形ってわけじゃないからな」


「そうだね。でも、人形部隊はそうじゃなかった。人形部隊はまさしく人形そのものだったからね……帝国としても、さすがにそんな部隊を作り出してしまうクラウディアを危険視せざるを得なかった。だから追放した……そういうことだと思う」


「なんだ。お前にしては情報が不正確だな」


 俺がそう言うと不満そうにウルスラは俺を見る。


「僕だって彼女に関しては良く知らないんだ。僕はデスクワーク派、彼女はバリバリで前線に立って指揮を執るタイプだったからね。魔女としては珍しいんだよ? ああいうタイプは」


 そういうウルスラはどこか怒っているようにも見える。


 そういえば、コイツはあまりクラウディアのことが好きではないとか言っていた。そもそもあまりクラウディアのことは知らないのかもしれない。


「……ということは、エルナも、このままだと……」


 そこへ悲しそうな声でリゼが入ってきた。ウルスラはリゼの事を見て少し気まずそうに話す。


「あ、いや……無論、それは戦争中の話だから。別に魅了が強くなっても死ぬわけじゃないと思うけど……」


「ですが……このまま魅了が強くなれば……エルナは私のことを忘れてしまうのではないのですか?」


 辛そうにしながらも、リゼはウルスラにそう問いただす。


 ウルスラは答えづらそうにしながらも、小さく頷いた。


「……魅了の能力というのは心の支配だ。それが強くなれば強くなるほど、魅了された当人は、クラウディアのことしか興味がなくなってしまう……エクスナー少尉も放っておけば……」


 ウルスラがそう言うとリゼは辛そうにそのまま俯いてしまった。俺はそんなリゼをしばらく見た後で、話す決心をした。


「まぁ、そうなったらそうなった、ってことだな」


 俺がそう言うとリゼは顔を上げる。


「……どういう意味でしょうか?」


「そのままの意味だ。アイツがお前のことを忘れたら、アイツの中でお前はその程度の存在だった、ということだ」


 俺がそう言うと、普段あまりイラ付く素振りさえ見せないリゼが眉をゆがめて俺を睨んだ。


「……エルナは……私のことを忘れたりしません!」


 そして、部屋中に鋭く響く声で、リゼはそう言ったのだった。

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