第86話 取り戻したいモノ その2

 リゼの言葉を聞いて、俺は大きくため息を付いた。


「そう言うと思ったが……会うのは明日だって言ったじゃないか」


 俺がそう言うといつものリゼからは想像できないほど語気を強めてリゼは先を続ける。


「それはそうですが……エルナのことを放ってはおけません! 一刻も早く救出しないと!」


 珍しく感情を露わにしているリゼ。どうやら本気でエルナのことを心配しているようだった。


「……まぁ、待てよ。リゼ、お前の気持ちはわかる。エルナには部屋も与えられているって話なんだ。そんなに心配することもないだろう?」


 俺がそう言ってやるとようやくリゼも落ち着きを取り戻したようだった。


 悲しそうにしながらもリゼはそれ以上俺に対して何か言おうとはしなかった。


「じゃあ、姫様にも理解してもらったということでね。エクスナー少尉の件は明日以降考えると言うことにしようか」


 呑気にそういうウルスラ。


「で、今日はどうするんだ?」


「ああ。宿屋にでも泊ろうか。さっきここに来るまでに宿屋を通ったよ。僕が案内するよ」


 ウルスラはそう言って歩き出した。俺もそれに続いて歩き出す。


「あ……ロスペル様」


 と、そうしようと思った矢先、リゼが俺に話しかけてきた。


「なんだ? リゼ」


「……先程は取り乱してしまって申し訳ございません」


 すまなそうにしながらリゼは俺にそう言ってきた。


「いや、別に構わないぞ」


「……怖かったんです。私……」


「怖い? 何が?」


「その……エルナが私から遠い所に行ってしまうようで……」


 そういってガラス玉の瞳をリゼは俺に向けた。その目は明らかに不安に満ちていた。


 その気持ちは、俺にはわかった。


 兵士として戦場にいた時は、ずっと不安だった。


 戦場で活躍すればするほどに、自分と言う存在がリザから離れたものになってしまうのではないか……そんな不安がずっと付きまとっていたのだ。


 もっとも、結局その不安は現実になってしまったからこそ、俺の目の前には人形の少女がいるのだが。


「……とにかく、宿屋に行くぞ」


 俺はリゼの言葉には返事せずにそのまま歩き出した。リゼもその後に付いてきているようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る