第85話 取り戻したいモノ その1

「何? ないのか?」


「うん。魔女の中でも特殊な能力だからね。僕も対処法は知らない」


 なんとも無責任な話であるが、ウルスラの性格からして知っていればここで教えるはずだ。それを教えないということは、本当に知らないのだろう。


「エルナは……助けられないのですか?」


 不意に背後から声が聞こえてきた。振り返ると、悲しそうな顔でリゼが俺とウルスラを見ていた。


「うーん……そうだねぇ。残念だけど姫様。ここはすっぱりあきらめてもらって――」


「できません! エルナと別れるなんて……私、そんなこと……」


 悲しそうに顔をゆがめるが、涙は出ない。人形だから当たり前である。


 しかし、その表情を見ていれば、おそらく泣けるならば、ボロボロと涙をこぼしていたであろうことは、想像にたやすかった。


 その表情を見て思った。


 俺は、またリザを泣かせているのだ、と。無論、頭の中では泣いているのはリゼだということはわかっている。


 だが、そのリザに似せて作った人形の顔は、まぎれもなく泣いている時のリザそのものだった。


 そして、同時にもう一つ、俺の中である感情が沸き起こった。


 リゼに対する罪悪感だ。人形にされた上、その顔で泣いている。そして、俺は自然と思った。


 リゼは、泣かせてはいけないのだ、と。


「困ったなぁ……エクスナー少尉と一対一になれば、対処法も見つかると思うんだけどね……クラウディアは執着心が強いから、早々簡単にエクスナー少尉を一人にするとは思えないし」


「エルナと一対一になれば、魅了の能力は解除できるのか?」


 俺がそう聞くとウルスラは難しそうな顔で俺を見る。


「いや、確証はないよ? ただ、魅了っていうのは心の隙間に付け込む能力だ。心の隙間って言うのはすれ違いとか勘違いでできている……そして、エクスナー少尉の心の隙間はまぎれもなく彼女の勘違い……だとすれば、その原因をなんとかしてあげれば、解決するかもって話さ」


 ウルスラの話を聞いて、リゼも少し安心したようだった。そして、泣くのをやめて俺のことを見る。


「ロスペル様。私、もう一度クラウディア様にお会いしたいと思います」


 はっきりとした口調で、リゼは俺にそう言った。

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