第81話 不服従の理由 その1
「え……よ、よろしいのですか?」
クラウディアの返答にリゼはかなり戸惑っていた。
「ああ。別に世話などしていない。むしろエルナには色々と屋敷の掃除をしてもらったりした。こちらが世話になったくらいだ」
あっさりとクラウディアはそう言った。
その反応でリゼも驚いたようだった。
しかし、俺としては先程からなぜかリゼを睨んでいるエルナの事が気になった。
「本当に……よろしいのですか?」
「ああ。エルナが良いのならば、ね」
クラウディアの物言いは、少し引っ掛かる言い方だった。
しかし、リゼはホッとしたのか、エルナに近づいて行く。
「そう……ですか。では……エルナ。さぁ、行きましょう」
そういってリゼはエルナに手を差し出す。
「申し訳ございません。姫様。私は、もう姫様とご一緒できません」
しかし、エルナははっきりとそう言った。
俺にも聞こえるように、まぎれもなく、リゼの差し伸べた手を拒否するようなセリフを吐いた。
「……え? ど、どうしたのです? エルナ」
エルナはジッとリゼの方を見ている。
リゼは信じられないと言う風に目を見開いてエルナを見ている。
「私は、もう姫様の従者ではありません」
「なっ……何を言っているのです! そんな……貴方は私の従者です!」
リゼが珍しく大きな声でそう言った。しかし、エルナはそれでも無表情のままでリゼに向かって対峙している。
「エルナ……どうして、そんな……」
「私が仕えるべき新しい主君は、クラウディア様ですから」
エルナは淡々とした調子でそう言った。リゼはそう言われてただ呆然とエルナを見ているだけである。
「え、エルナ……そんな……本気ですか?」
リゼの問いに、エルナはコクリと頷いた。
リゼはそれ以上何も言えなくなってしまったようで、ただ、フラフラと俺の方に戻ってきた。
「……えっと、つまり、エルナは姫様とはもう一緒にいたくない、ということか?」
クラウディアが確認するようにそう言うと、エルナはゆっくりと頷いた。
「そうか……だ、そうだ。姫様、どうする?」
しかし、クラウディアの言葉はリゼには聞こえていないようだった。ガラス玉の瞳はまるで人形のように焦点が定まっていない。
「う~ん……困ったな。君、どうすればいいと思う?」
今度はクラウディアは俺に聞いてきた。俺はリゼの方を見てから、今一度クラウディアの方に視線を向ける。
「出直しだ。今日はリゼも混乱しているようだ」
俺の返答に、ニヤニヤとしながらクラウディアは頷いていた。
そして、俺は確信していた。
この胡散臭い軍服の魔女がエルナに何かしたのだ、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます