第75話 反乱の街 その5

 そして、次の日の朝早く、俺達はリベジスタの街へと向かった。


 ウルスラの言う通り、その日の昼辺りにはリベジスタの街が見えてきた。


「あれが……リベジスタ、か」


 リベジスタの街は思ったような外観ではなかった。


 反乱の街と呼ばれているほどなのだから、まるで砦のような街かと思っていたのだ。


 しかし、そうではなかった。


 まるで普通の街だ。高い壁もなければ、番兵の姿さえ見えない。


「本当にあれがリベジスタなのか?」


 俺がウルスラの訊ねるとウルスラはニヤリとほほ笑む。


「普通に見えるだろう? クラウディアと同じさ。見た目は普通……だが、その内実は狂っているんだ。もしかすると、僕や君よりもね」


 そういうウルスラ。狂っている……確かに狂っているヤツというのは見た目は普通に見えるものである。


「さぁ、行こう。あんな感じだ。自由に入れるさ」


 ウルスラが簡単にそう言った。俺も特に異論はなかった。


「リゼ。大丈夫か?」


「え? あ……はい」


「なんだ。怖いのか?」


「あ……そうでないのです。ただ、あそこにエルナがいるのだな、と」


 そういってリゼは不安そうに前方の街を見る。


 何の変哲もない街……その分、何か不安に思えてくる。


 俺達三人はそのまま街の方へと歩みを進め出した。


 そして、そのまま街には本当にになんのことなしに入れてしまった。


 番兵などに身元を確認されることもなく、自然と街に入れたのである。


「さて。さっさとエクスナー少尉に会わないといけないね」


 ウルスラはそう言って、いきなり近くを歩いていた男に近寄って行った。


「お、おい」


 俺が飛びとめたのは既に遅かった。ウルスラは男を呼びとめてしまっていた。


「すまないのだけれど、クラウディアはどこにいるんだい?」


 ウルスラがそう言うと男は目を見開いてウルスラを見た。


 瞬時に俺は腰に差してあった短剣に手を駆ける。


 なぜなら既に周りの雰囲気も一変していた。


 道を行くもの達が皆、俺達を見ていたのである。


「ろ、ロスペル様……」


 不安そうな声でリゼが俺の近くに依ってきた。


「なんだい? そんな怖い顔しなくてもいいじゃないか」


「……お前、何者だ? なぜクラウディア様に会おうとする?」


 男は警戒心たっぷりでウルスラに訊ねた。


 しかし、ウルスラの方は相変わらずの笑顔のままで男を見ている。


「何者、って……知り合いさ。クラウディアとは古い付き合いなんだ」


「なんだと? 信用できるか。帝国の手先だろう!」


「うーん……それも否定できないかな」


 そうウルスラが言った瞬間だった。ウルスラの胸を剣先が貫いていた。


「……あれ?」


 ウルスラは小さくそう言うと、大量に吐血した。


「帝国の手先だぞ! 皆来てくれ!」


 男が大声で叫ぶと、瞬時に大勢の人々が俺達の周りを取り囲んだ。


 それは皆街行く人々だ。普通の格好にも関わらず、俺とリゼ、そしてたった今刺殺され、地面に倒れたウルスラを取り囲んだのだった。

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