第4章 救いと孤立

第76話 統制の魔女 その1

「お前達も、帝国の手先なんだろう!」


 取り囲んだ男の一人が俺とリゼに向かって怒鳴った。


「おい、そうなのか? 答えろ!」


「……そうだと言ったら、今そこで転がっているヤツみたいになるのか?」


 俺がそう言うと、取り囲む大衆は俺達のことをさらに睨んだ。


 隣ではリゼが恐ろしさで身をすくませている。


 人形なのだから死ぬことはないのに怯えてしまう辺りに、どうにもリゼの間抜けさを感じてしまう。


「……あれ? ここどこだ?」


 その時だった。


 横たわっていたウルスラが起き上がった。どうやらフランチェスカに入れ替わったようである。


 それを見ていた大衆は目を丸くした後、一気にフランチェスカから後ずさった。


「ば……化け物!」


 ……それはそうだろう。先程殺したはずの奴が起き上がったら化け物以外なんと呼べばいいのか。


「ばけもの? だれだ、それ?」


 しかし、フランチェスカは呑気にそう言っている。


「こ、コイツらやはり帝国の手先だ! さっさと殺せ!」


 そういって大衆達はこちらににじり寄ってくる。何人かは手に武器を装備している。


 ここは戦わざるを得ないようである。


 俺は今度こそ短剣を強く握り、それを取り出そうとしていた。


「待ってくれ」


 その時だった。俺の耳によく響くさわやかな声が聞こえてきた。


「あ……く、クラウディア様!」


 そんな声が聞こえてきたので、声の主が誰かはすぐにわかった。


「ふふっ。どうやら、本当に私の知り合いが来ているようだな?」


 そういって大衆が自然と道を開ける。


 その道から現れたのは一人の女性だった。


 女性と言っても、俺よりも年下のように見える。しかし、来ている服装は、ズール帝国の軍人の軍服だ。


 帽子を被り、マントを羽織った、長い金髪の軍服の女は、俺、リゼ、そしてフランチェスカを一通り眺めた。


「ようこそ。迫害された者達の最後の砦、リベジスタへ」


 自信に満ち溢れた、満面の笑みでそう言ったのだった。

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