第36話 奇怪な追跡者 その2

「姫様!」


 エルナがそのままリゼの元に駆け寄る。


「……ははっ! 刺さった! 刺さった!」


 少女が奇怪な笑い声をあげながら、リゼから飛びのいた。包丁を突き刺されたリゼは驚いた顔をしているが、その場に立ちつくしているままである。


「姫様! 大丈夫ですか?」


「え……ええ。私は大丈夫です」


 エルナはすかさずリゼの胸に刺さっている包丁を抜き、少女に向かって投げ返した。


 すると、少女の頭にその包丁が突き刺さり、少女はそのまま道に仰向けに倒れた。


「おお、さすがだな」


 思わず感心の声が漏れた。と同時に、少女はそのまま仰向けに地面に倒れた。


「……くそっ。そこらにいるような娘に変装してやってくるとは……姫様もお気をつけください」


「……ごめんなさい」


 いまだに驚いているのか、呆然とした様子でリゼはエルナの言葉に帰していた。


「しかし、人形で良かったな。じゃなきゃアイツみたいに死んでたぞ?」


 俺がそう言うとエルナがキッと俺を睨んできたので、俺は視線を反らした。


「そうだね……人形じゃなかったら、今頃死んでただろうね」


 と、今度はいきなりどこからか声が聞こえてきた。俺は周囲を見回すが、人影は見当たらない。


「だ、誰だ?」


 思わず俺を辺りを見回してしまった。


「ふふっ……エクスナー少尉。君は軍紀違反だよ」


 名前を呼ばれて驚くエルナ。しかし、エルナも同様にどこから声が聞こえてきているのかわからないようだった。


 どこからか聞こえてくる声。しかし、その声の主がわからない。これは恐ろしいことだ。


「どこにいる! 出てこい!」


 エルナがそう叫んでも、返事はなかった。


「あ……」


 と、小さく漏れた声は、リゼのものだった。


「どうした? リゼ」


「あ、あれ……」


 リゼがおびえた表情で指差す先。俺もその先にあるものを見て驚いてしまった。


 額に包丁が突き刺さったままの先ほどの少女がそこに立っていた。ニヤニヤと嬉しそうな笑みを浮かべてこちらを見ていたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る