第32話 人形の彼女 その3
と、そこへ声が割って入ってきた。声のする方を見る。
「え……エルナ。なぜ……」
暗闇の中に立っていたエルナは、ひどく不機嫌そうな顔だった。
「姫様。ソイツとは離れて寝ることにしようと、私は申し上げたはずですが?」
「で、ですが……」
リゼは困ったように下を向いてから、俺に助けを求めるようにこちらを見た。
「……ふっ。別にいいじゃないか。俺だって、一度人形にしたヤツをもう一度殺したりしないさ」
「……貴様、一々カンに障る言い方をする奴だな」
「そうか? お前は、終始無愛想なままだな。そんなだから、お前の大事な姫様も、お前と居づらくて俺の所に来たんじゃないか?」
そう言ってやると、エルナは目を見開いて、唇をきゅっとかみしめた。言われて図星だったのだろうか。
「……そうなのですか? 姫様」
「そ、そんな……ロスペル様、私は……」
「大体、お前のその格好、ズール帝国の軍人のものだよな。お前自身ズール帝国の軍人だと名乗っていた……それなのに、どうして継承争いに負けた王子の娘を守ろうとしているのか、俺にはわからないんだが?」
エルナは怒っているようだった。握りしめた拳がどれほどエルナが怒っているかを物語っている。
さすがにあまり怒らせると厄介だということはわかっていた。そもそも、気の短いヤツだということはなんとなくわかっている。
俺とエルナはしばらく睨み合っていた。しかし、先に視線を反らしたのはエルナのほうだった。
「……姫様がそのような男と話したいのならば、お好きになさってください」
「エルナ! 私は……」
リゼの呼び掛けにも答えず、そのままエルナは立ち去ってしまった。リゼはそのままエルナを追いかけようとしたが、なぜかその場で立ち止まり、俺の方に戻ってきた。
「どうした? 行かなくていいのか?」
「……ええ。正直、エルナとは一緒にいたくないのです」
「なんだ。お前、アイツのこと嫌いなのか?」
「そんなことありません! ただ……」
激しく否定をした後で、考え込むようにリゼはうつむいてしまった。もっとも、大体コイツの考えている事はわかったが。
「なるほど。お前といるとアイツが余計な気を回し過ぎる、と。お前としてはアイツにはあんまり遠慮してほしくないわけだな」
無言のままに、リゼはゆっくりと頷いた。なんとも面倒な関係である。
「で、アイツとお前、どういう関係なんだ。後、アイツの言った言葉の意味、どういうことだ?」
するとリゼはしばらく黙った後で、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「……エルナは、私の姉妹なんです」
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