第30話 人形の彼女 その1
「……様……ペル様」
「……ん?」
「ロスペル様……起きてください」
俺は目を開けた。すると、その先にいたのは金色の美しい髪にガラス玉のような瞳の少女……
「……リザ?」
思わずそう呟くと、少女は困ったように微笑んだ。
「すいません……私です。リゼです」
「リゼ……ああ、お前か」
別に落胆するわけでもなかったが、現実に戻ってきた事を認識し、俺はそう呟いた。
「すいません……」
「もういいさ。で、どうした?」
「あ……いえ。先ほどのこと、謝ろうかと」
「何? 謝る? 何を?」
俺が戸惑っていると、リゼは申し訳なさそうな顔で俺を見る。
「……エルナのことです。すいませんでした……」
「ああ。いや、別に……本当のことだしなぁ」
どうにも調子がくるってしまった。むしろ、ここでリゼは怒ってくれた方がいい。俺がエルナに対し絡んだのだから、エルナが怒るのは当たり前である。
「いえ……いいのです。私は、別にロスペル様を恨んではいませんから」
「……は?」
思わず俺は間の抜けた声を出してしまった。恨んでいない? それはどうにもおかしな話である。
無論、恨んでくれと言っているわけではない。だが、まったく恨んでいないというのは嘘だろう。なにせ、俺はリゼを殺したのだ。
「ふふっ。驚いていますね」
「え……そりゃあ、まぁな。俺はお前を殺したわけだし……」
すると、リゼはキョトンとした顔で俺を見た。そして、なぜかいきなりポンと手をたたく。
「そうでしたね。私、ロスペル様に殺されたんでしたね」
「はぁ? お前……大丈夫か? っていうか、人形にされた直後は怒っていたじゃないか。それなのに、今はどうして……」
「ああ。いえ、さすがの私もいきなり人形にされてしまって動揺してしまって……其の事に関しても謝ります。申し訳ございませんでした」
もはやなんとも言えなかった。人間ができているというか、人がよすぎると言うか……とにかく目の前の人形少女はどうにも感覚がずれているような気さえする。
俺は思わずマジマジと目の前の少女を見てしまう。見た目は完璧にリザそのものだ。
そりゃあ、俺が十年かけて造った努力の結晶なので、当り前のことなのだが。
しかし、やはりコイツはリザではない、リザはこんな風に物事に対し余裕を持って接するタイプではなかった。いつも感情のままに、自由に生きている……それが俺の知っているリザだった。
だからこそ、俺にとってリゼという名前の似た少女は、なんとなく無理をしているような気さえする。殺された相手に対し謝るなんてのは、人間ができているというよりも、もはや、或る意味で異常とさえ思える。
一体全体、コイツはどういう人間なんだろうか……
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