第29話 旅の始まり その4
俺が訊ねると、黒装束の少女は言葉を詰まらせた。戦場にいたことのある人間ならば、ソイツが人を殺したかどうかなんてすぐわかる。
それに、俺は戦場で人よりも多くの人を殺した。それはもちろん、一人でも多く敵を殺せば戦争が速く終わると思ったからだ。もっとも、それにもかかわらず俺がいた陣営……つまり、第二王子陣営は破れてしまったわけであるが。
「貴様……姫様の前でそのようなことを言うのは慎んでもらおう」
「なんだ? リゼだって、分かっているだろう? お前らの関係はよくわからないが、エルナが人を殺していることくらい、知っているんだろう?」
「黙れと言っているだろう!」
俺の言葉をさえぎって、エルナがいきなり怒鳴ったので、さすがの俺もそちらを見てしまった。
エルナは威嚇する狗のように唸り声さえ上げるほどに俺のことを睨んでいる。どうやら怒らせてしまったようだった。
「……ああ、悪かった。じゃあ、今日はここで休もう」
俺は肩をすくめて近くの地面に座り込んだ。
「姫様。此の男とは離れて休みましょう」
「え……でも……」
「いいのです。こちらへ」
そういってエルナはそのままリゼを引き連れて離れて行ってしまった。
「……へっ。一人にしてくれて結構。その方が助かるよ」
俺はそう言いながら地面に横になり夜空を見上げた。
それにしても……失敗かぁ。
一人になると考えてしまうのは問題だった。しかも考えることと言えば、魔人形制作の失敗の件である。
これからどうするべきか……もちろん、あのリゼとかいう姫様を人間に戻すためにシコラスの元にまで案内するという予定はある。しかし、その後だ。その後、俺はどうしたらいいのか……
「それこそ、俺にはもう何も……」
何も残ってはいない。ひらすら努力してここまで来たのだ。それなのに、失敗した。もはやこれ以上努力する気にはなれない。既に時間も労力も使い果たしてしまったのだ。
「……はぁ。俺、どうするのかなぁ」
他人事のようにそう言って俺は目をつぶって。もちろん、そんなことを言った所で何の解決にもならないことは十分に理解していた。
それでも、もう考えたくはなかったので、俺はそのまま眠ることにした。
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