第19話 故郷 その4
「そ、そうでしたか……そ、それで、軍の方がなぜここに?」
村長はわけがわからないようだったが、俺は思い出した。
帝国陸軍特殊暗殺機動部隊……通称「暗機隊」。
かつて戦争時、情勢的に不利であった第二王子側が、第一王子暗殺のために、正規の部隊とは別に、暗殺のみに特化させて鍛錬した兵士を中心に組織した部隊……
無論、俺も戦争の時に噂で聞いたのみである。しかし、暗機隊はかなりの戦果を上げたと聞いたこともある。
その部隊所属の少尉とやらがなぜここにいるかはわからないが、とにかくソイツはもし肩書通りの身分ならば、おおよそこの場にはそぐわない存在であるわけだ。
俺がそんな風にしてソイツを見ていると、エルナと名乗った少女は俺と人形を鋭い視線で睨みつけた。
「そこの男、ロスペル・アッカルドに話がある」
そういって少女は俺をさらに鋭い視線で睨みつける。それこそ、まるで俺に何か恨みでもあるかのような視線だった。
「お、お待ちください! その物はもしかすると人殺しかもしれない危険な男でして……」
「もしかすると? 馬鹿なことを言うな。コイツは現在帝国領土内で指名手配中の罪人だ」
「ざ、罪人? ろ、ロスペルは何をしたのですか?」
「何をした? 人殺しだよ」
「で、ですから、コイツは既に十年前に……」
「いや、最近もコイツは人を殺している」
俺も驚きだった。確かに、俺は人を殺した。それだけでなく、殺したソイツの魂を人形の中に押し込んでしまった。罪人であることに間違いはない。
だが、指名手配になるほど人を殺した憶えはない。帝国内は治安が悪く、盗み、殺しなどは日常茶飯事で、人を一人殺した程度では、捕まることはあっても、指名手配にはならない。
それこそ、余程の重要人物や身分の高い人間を殺さない限りは……
「こ、殺したって……誰を?」
村人の誰かのその質問に軍人はもう一度俺をにらんだ後で、その後ろに立っていた人形を見て、悲しそうな顔をした。
「……コイツが殺したのは……先の戦争で死刑となった第二王子、アウグスト・フォン・ベルンシュタイン様のご息女、リゼ・フォン・ベルンシュタイン様だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます