第18話 故郷 その3

「あ……ど、どうしたんですか?」


 そこへ、人形の声が聞こえてきた。その声に全員がそちらに視線を向ける。


 その時、一陣の風が吹いた。そして、人形が被っていたフードが、風によって捲くられる。フードの下から人形の素顔が現れる。


「なっ……り、リザ?」


 誰でもなく、群衆の一人が驚きの声をあげた。そして、他の奴らも同じようにどよめきだす。


「静かにしろ! おい、そこの娘をロスペルの所にまで連れてこい!」


 村長が乱暴にそう言うと、人形が俺の前に連れてこられた。人形の顔は、まぎれもなく現在俺を取り囲んでいた奴らが、俺が殺したとされるリザの顔をしていた。


 さすがの村長含め、村の奴らも驚いたらしく、絶句して居る。


「な……ど、どういうことじゃ! ロスペル!」


 やかましく怒鳴り立てる村長を見て、俺は思わず笑ってしまった。


「な、何がおかしい! お前……この子は……」


「ふふっ……ああ、見ての通りだ。だがな、コイツは失敗作だ。リザじゃない」


「し、失敗作じゃと? 貴様、一体この十年何をして――」


 村長がそこまで言った其の時だった。


「失礼」


 と、いつの間にか村長の隣に一人の少女が立っていた。


 切れ長の瞳に、短めの黒い髪。そして、黒いピッタリとした素材でできた服を着たソイツは、まったく気配を感じさせることなくそこに立っていた。


「なっ……なんじゃ、お前は?」


 村長も俺と同様だったようで、いきなり現れた少女に目を丸くする。


「ああ、突然すまない。私は、こういう者だ」


 そういって、少女は腕に付けた腕章を村長に見せる。その腕章には、帝国のシンボルである十字に交差した剣の文様が示されていた。


「なっ……ぐ、軍の方ですかな?」


 村長の態度がいきなり変わった。それはそうだろう。


 帝国は現在完全独裁制度の国家である。国に逆らうことは、死に直結することになる。


「ああ、そうだ。私はエルナ・エクスナー。帝国陸軍特殊暗殺機動隊所属の少尉だ」


 そして、短髪の少女は、言い放つようにそう言ったのだった。

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