第20話 殺戮人形 その1

「……えー……少尉殿、その……お茶などは……」


「いや、結構だ」


 その後、村長以外の村人を軍人は全員家に追い返し、俺と人形、そして、村長の四人で、村長の家の中で「話」とやらをすることになった。


「で、話ってなんだ? 手短にしてくれ。俺もそこの村長に聞きたいことがある」


 正直なところ、俺にとってはコイツの話なんてどうでもよかった。一刻も早く村長に真実かどうかを確かめたい。


 俺が、リザを殺してしまったのかどうかを。


「お、おい! ロスペル! お前、少尉様になんてことを……」


「いや、いいんだ。私はコイツがどういう人間か知っている」


 その言葉に俺は違和感を覚え、エルナを睨みつけた。


「どういう意味だ? 俺はお前に会うのは初めてなんだが」


「ああ。そうだ。だが、お前の戦争時の活躍は、きちんと現在の帝国の資料として残っている」


 そう言うと軍人は懐から何やら書類のようなものを取りだした。


「ロスペル・アッカルド。継承戦争時は『報国突撃隊』に所属。多くの突撃隊員がしんでいく中、貴様だけは敵地で戦果をあげ、必ず生きて帰ってきた……そうだな?」


 そう言われて俺は思い出した。事実、そう言われるまで忘れていた。なぜならば、その事実は俺にとってどうでもいいことであったし「十年前、自分は戦争に参加した」という程度にしか、俺の中で認識されない事実だったからだ。


「貴様は敵陣に突撃し、無慈悲に殺戮を繰り返した。よって、付いたあだ名が……『殺戮人形』」


「さ……殺戮人形……」


 驚きの声でそう言ったのは、村長でも軍人でもなく、俺の隣に座っていた人形だった。


 殺戮人形……そんな風に呼ばれていたと云うのは初めて聞いた。それにしても、「人形」というのはなんとも皮肉な話である。


「第二王子派として参加した貴様は、戦争後は姿を消した。しかし、まさか思わぬ形で貴様に会うことになるとは、私も思わなかった」


 軍人はそう言って書類を再び懐にしまった。


「……で、それでお前の話ってのは全部か?」


「いや。お前がどういう人間かは正直どうでもいい。問題は……なぜ姫様がそのような人形になっているのか、ということだ」


 女軍人は鋭い目つきで俺をにらんだ後で、その隣に座っている人形を見る。人形は申し訳なさそうに女軍人から目を反らした。


「に、人形? ど、どういうことですかな?」


 村長の混乱ぶりに、女軍人は大きくため息をついた。


「村長。いいか。決してこのことは他に喋るな。命がほしければな」


 そう言われて、村長は青い顔をして必死に顔を縦に振った。


「……で、どうなのだ。ロスペル」


「ふっ……さぁな。十年間の努力の結果がこの人形だ。簡単には教えられないな」


 俺が意地悪くそう言うと、悔しそうに下唇を噛んだ。


「……姫様。どうしてそのようなお姿に?」


 俺から回答を得ることが出来ないとわかると、女軍人は人形の方に会話を向けた。女軍人にそう言われて、人形は悲しそうな顔で軍人を見る。


「エルナ……私にも……よくわからないのです」

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