第15話 失敗作 その3

 それから半日ほど歩いて雨も止んだ。俺の故郷の村までは、後数時間歩けばたどり着くという辺りだった。


「今日はここで休む」


 近くにあった木の下に座り込んで俺はそう言った。人形は少し意外そうな顔で俺を見る。


「なんだ。何か言いたそうだな」


「え……ああ、いえ。私、全然疲れてなくて……」


「言っただろ。魔人形は疲れないんだよ。だがな、俺は疲れた。だから、寝る」


「え……ちょ、ちょっと待ってください」


 俺が目をつぶると慌てた様子で魔人形が俺の肩を揺らしてきた。


「あ? なんだよ」


「私、眠くないんですが……」


「だから、言っただろ? 魔人形は疲れない。食事も取らなくていい。もちろん、寝なくてもいいんだ。っていうか、眠るってこと自体、魔人形にはできないだろうけどな」


 嘲笑うようにそう言うと、またしても魔人形はショックを受けたようだった。その表情はリザのそれそのものなので、そんな顔を見るとさすがに少し罪悪感はあった。


「そう……ですか」


「ああ、そうだ。俺は寝る。邪魔するなよ」


 そう言って今度こそ俺は目をつぶった。明日はいよいよ十年ぶりの故郷である。きっと、俺のことを憶えているヤツなんてもういないはずだ。


 なにせ、俺は故郷に父も母も残していない。俺の家族と呼べるにはリザだけだった。


 ただ……一つ引っかかる。リザ以外にももう一人、俺には親友がいたはずだ。それなのに、俺はソイツの名前を思い出せない。顔もだ。確かに十年という長い年月が経ったのだから思い出せないのも仕方がないのかもしれない。


 しかし、親友の顔を思い出せないというのは一体どういうことなのか――


「あの……すいません」


 そのまま眠りにおちていこうとした手前で、再び人形に肩を揺らされた。無論、俺は不愉快だったので人形をにらみつける。


「なんだ。邪魔するなと言っただろう」


「その……大丈夫ですか?」


「……はぁ? 何がだ?」


 人形はオドオドした様子で回りを見ながら俺のことを見る。


「だって、こんな場所で寝てしまって……もし、何かに襲われでもしたら……」


「ふっ……はははっ。心配するな。魔人形は外部からの要因で壊れることはない。何かあるとしても、俺が死ぬだけだ」


「そんな……死んでもいいような事を言わないでください」


「いや、俺は別にいつ死んでもいいと思ってる」


 俺の言葉に人形は驚いたようだった。ガラスの瞳が月光を反射して光っている。


「どうして……どうしてそんなことを言うのです?」


「俺はリザのいない世界でそもそも生きたいなんて思わない。この十年間、どんなに死のうと思ったことか……で、結局十年かけた人形の製作も、その結果できたのがお前だ。俺がこの世界に未練があると思うのか?」


 人形は何も言わずただ俺を睨みつけていた。やはり、その表情は不快だった。まるで、リザが俺のことを睨んでいた事を思い出すような……


 思い出す? 思い出すって、なぜ? リザがそんなことをするわけがないのに……どうして、俺は……

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