第14話 失敗作 その2

「え……ど、どうしたんですか?」


 人形が不安そうに俺に訊ねてくるが……どうでもよかった。


 思い出した。俺は、こんな言葉をリザに言われた記憶がある。でも、なぜ? そんな言葉を言われる状況などあるはずがない。俺とリザは愛し合っていた。喧嘩なんてすることは俺の記憶では全くない。


「だ、大丈夫ですか?」


「う、うるさい……平気だ」


 心配そうに声をかけてくる人形を無視し、俺は立ち上がった。


 おかしい……なんだこの記憶は。忘れていたというのか? そんな記憶を?


 まさか……意図的に忘れていたのか? 俺は……


「ま、待ってください」


 混乱する記憶を振り払いながら俺が歩き出そうとすると、人形がまた話しかけてきた。


「……なんだ。まだ用があるのか?」


「はい……正直、私自身もまだこの現実を受け入れられないのですが……その……私も行ってはいけないでしょうか?」


「行くって、どこへ?」


 すると人形は少しためらったあとで、思い切った顔で俺を見る。


「貴方の、故郷です」


「……はぁ? なんで?」


「その……私も、貴方の恋人に哀悼の意を捧げたいのです! さきの戦争は……誰にとっても辛いものでしたから……」


 人形はそう言って、そのガラス玉の瞳で俺を見た。その表情は、作った俺自身が言うのもなんだが、まさしく人間が真剣に頼みごとをしているときの表情そのものだった。


 しかし、これは予想外だった。そもそも魔人形の生成が失敗に終わったこと自体が予想がであったが、まさかその失敗作が、俺と一緒にいたいと言い出したのである。


 おそらくは、人形にされてしまったショックがいまだに続いているだけだろう。少し経てば離れていくかもしれない。


「……分かった」


 俺がそう言うと人形は安心したようだった。そして、俺はもう一つ、フード付きのマントを人形に向かって差し出した。


「え……なんですか?」


「お前は木製なんだよ。魔人形は魔法の力で守られているから平気だと、俺に魔人形の作り方を教えたヤツは言ったが俺はいまいち信用できない。腐ると不味いからこれ、被ってろ」


 人形はポカンとしていたが、マントを受け取るとそれを纏った。


「……ありがとうございます」


 雨音に交じって小さな謝礼の言葉が聞こえた。なんでお礼なんて言うのか。恨まれることさえあれ、コイツにお礼なんて言われる筋合いはない。


「じゃあ、行くぞ」


 人形が行った礼の言葉は無視し、俺はそのまま再び歩き出した。

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