第13話 失敗作 その1

 俺が立ち寄った街から俺の故郷の村までは歩いても一日くらいの距離だ。急ぐことではないので、俺は廃屋を出た足で、そのまま故郷へと向かうことにした。


 雨はそれからも降りつづけたので、用意していたフード付きのマントを頭から被る。道行く人も雨の中を急ぎ足で歩いていく。


 歩いている最中は何も考えないようにした。考えてしまうと、自分がなぜ失敗したのかを考えてしまうからだ。


 だから、なるべく集中しようと思った。しかし、雨音に交じって先ほどからどうしても気になる音……というか、気配があった。


「……だから、お前はどうしたいんだ?」


 振り返って俺は雨音にかき消されないように叫んだ。


 俺の少し後を付けてきていた人形は、ビクッと驚いたように反応した。人形とは思えない反応を見て思わず俺はそれを可笑しく思ってしまった。


「わ、私は……ど、どうすればいいのでしょう?」


「はぁ? 知るか。お前は人形なんだ。これからは食べなくても生きていける。寝なくてもいいし、疲れることもない。好きなように生きればいいじゃないか」


「え……そ、そうなんですか。あ、あはは……素敵ですね」


 ぎこちなく笑いながら人形はそう言う。どうやら、人形にされてしまったショックで可笑しくなってしまっているようだ。


「ああ、そうだろ? だったら俺にはもう付いてくるなよ」


 きびすを返して俺はもう一度人形に背を向ける。


「……ま、待ってください!」


 その途端、人形の叫び声が聞こえてきた。とても人形から発せられたとは思えない大声に俺は思わず振り返ってしまった。


「……なんだ。もう付いてくるなと――」


「どうして! どうして、そんな勝手なこと……言うんですか……」


 人形は、泣いていた。いや、違う。目の部分に雨水がたまり、それがこぼれているだけだ。


 しかし、そんなことはどうでもよかった。リザが、泣いているのだ。


 俺はその光景を、どこかで見たことがあった。


「え……な、何を言ってるんだ、リザ……」


「私は! リザなんかじゃありません! リゼです! 貴方が戦争で悲しい思いをしたのは分かります! でも! だから、って貴方の都合でなんで私が人形にならなくてはいけないんですか!」


 俺は知っている。この光景を。この言葉を。


 でも、なんで知っているんだ? リザが、俺に対してこんな風に怒ったことなんて――


『アナタの勝手な都合なんて、知らないわよ!』


「……う、うわぁぁぁ!」


 俺は思わずその場で叫んでしまった。

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