第12話 定められていた結末 その3

「……うっ……そ、そんな……」


 人形はしばらくするとようやくその事実に気付いたのか、そのままうなだれるようにうつむいてしまった。


「……涙が……出ません」


「ああ、そりゃあそうだ。お前は人形だからな」


 そして、リゼは俺のことをキッと睨みつける。


「貴方は……一体どうしてこんなことを? 人間の魂を人形に宿すなど……人間のやることではありません!」


「……お前に何がわかる! 戦争は俺から何もかも奪っていった! あんなにも努力したのに……それなのに……」


 自然と涙が出てきてしまった。人形は俺の顔を見て驚いていたようだ。


 それはそうだ。泣きたいはずの自分が泣けず、自分自身を人形にした俺自身が泣き始めたのだ。


 しかし、涙が出てくるのも当然である。この十年、努力を重ねて続けて、その結果がこれだ。納得できるわけがない。


 もちろん、人間の魂を人形に移しこむなんてことが、悪魔の所業なんてことは百も承知である。


 それでも俺は悪魔になっても、リザをもう一度この手で抱き締めたかったのである。


「……貴方は、兵士だったのですか」


 リゼはなぜか悲しそうにそう言った。


「兵士……ああ、そうだ。俺は誰よりも早く戦争の終結を願った。だから、戦場でも誰よりも多く敵を殺した。早く故郷に帰りたかったからな」


「故郷……そこに、貴方の大切な人がいたのですか?」


「ああ、そうだ。それなのに、彼女は既にこの世からいなくなってしまった……俺だけ残して……」


 そこまで言ってから俺は、そのまま俺は廃屋の扉へ向かった。


「え……ど、どこへ行くのです?」


「……帰るんだ。故郷へ」


「故郷って……わ、私はどうすれば?」


「知るか。さっきも言っただろう。どこへでも行けよ」


 冷たくそう言い放ち、俺はそのまま廃屋を出た。


 廃屋を出ると、雨が降っていた。まるで俺自身の心境を表すような、冷たい雨だ。


 俺はそのまま振り返らず廃屋を後にする。失敗作に用はない。しかし、俺の十年は結局失敗に終わってしまったのだ。これからどうすればいいのか……


「……とりあえず、墓参りに行こうか」


 とりあえず、俺が魔人形を完成させてから考えていたこと。それは、リザの墓参りに行くことだった。


 もちろん、失敗するかもしれないという考えは全くなかったわけではなかったのだ。その場合は故郷に戻り、墓参りをしようと思ったのだ。


 かといって、墓参りをしたところで、リザが戻ってくるわけでもない。


 ましてや俺の失敗が成功に変わるわけでもない……だが、十年間、俺は故郷に戻っていないのだ。だからこそ、せめてリザの墓参りくらいはしてやりたいのである。


「……リザ。ごめんよ」


 顔を上げて、俺は天に向かってそう呟いたのだった。

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