第10話 定められていた結末 その1

「リザ!」


 俺はそのまま魔人形を抱き締める。


「あ……ちょ、ちょっと……」


「リザ! 会いたかったよ……俺は、君に会いたくてずっと、十年間……」


 リザも動揺しているようだったが、兎に角抱き締めたかった。感触は魔人形の無骨な堅い感触で会ったが、それでも、リザと抱き合っていると思うだけで俺には感動が押し寄せてきた。


「ちょ、ちょっと……は、離して……」


「嫌だ! もう俺は君を離さない……これからはずっと一緒だ……」


「な、何を言っているんですか……そ、それに……リザって、誰ですか?」


 ……なんだって?


 俺は耳を疑った。今、何と云った?


 思わず抱きしめるのをやめ、魔人形から離れる。


「はぁ……まったく、いきなり人を抱きしめてきて……どういうつもりですか?」


「え……な、何を言っているんだ? リザ、俺だよ? ロスペルだ。わかるだろ?」


「え? 貴方……先ほどの……」


 先ほどの……なんだ?


 動悸が速くなる。そして、呼吸が荒い。やめてくれ。よしてくれ。間違っても、その先を言わないでくれ。


「私を守ってくれた方、ですよね?」


 俺は愕然とした。この言葉で、この魔人形の中身が誰か、理解できてしまったからである。


「……お、お前は、誰だ?」


 答えはわかっていても、俺は恐る恐る聞いて見た。


「え? 私、ですか? 私は、リゼ。リゼ・フォン・ベルンシュタインです」


「り、リゼ……う、嘘だぁ!」


 わかってはいても、取りみださずにはいられなかった。俺の大声にリゼとなのった少女は驚いていたが、そんなことはこの際どうでもよかった。


「ふ、ふざけるな……十年だぞ? 十年……十年努力してきたのに……」


「あ、あの……どうされたのですか?」


「うるさい! 黙ってろ! どうしよう……ああ……リザ……そんな……」


 と、俺はそこでようやく気付いた。床に、輝く何かが落ちている事に。慌ててそれを俺は拾う。


「え……そ、そんな……」


 それは、リザの髪の毛だった。確かに魔人形に縫い込んだはずの髪の毛が、床に落ちてしまっていたのだ。


「こ、これじゃあ、リザが呼べるわけないじゃないか……ああ、失敗だ……」


 なぜ? どうして? 俺は真面目に努力してきた。こんなのあんまりだ


 まさか、あれか? シコラスが言っていた。条件が外れていたのか? だとしたら、どれだ? 魔人形は間違いなくリザに似せた。そして、最後の条件である「魔人形に魂を宿す場合は、魔人形として創造したい人間と似た人物の魂を選ぶ」という条件も。


 しかし、俺はある事に思い当たってしまった。


「まさか、リザが俺に会いたくないっていうのか……?」

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