第7話 運命の出会い その2
「あ……どうかされましたか?」
おまけに声も、俺の記憶にある、あの優しいリザの声そのものだ。違う点といえば、なぜかそのリザそっくりな少女は、白いドレスを着ている。
そのドレスは走ってくる途中で長い丈を地面に擦ってきてしまったのかところどころ汚れてしまっていた。
「え、えっと……すいません。私、急ぎますので」
「ああ、ちょっと待って」
俺は思わずその子を呼びとめてしまった。すると、ドレスの少女はこちらに振り返る。
「な、なんですか?」
「君、何かに追われているんじゃないか?」
「え……」
その表情で、どうやら図星ということがわかった。ドレス姿で走っている少女なんてどう考えてもおかしいし、その顔は、猟犬に追われる獲物に似ているものがあったからである。
「俺は、人形師なんだ。この近くに家がある。ほとぼりが冷めるまで君をかくまってあげよう」
「え……い、いいですよ。貴方をこんなことに巻き込むことはできませんから」
「いや、遠慮しないでくれ。さぁ」
俺は半ば無理やりに少女の手を握った。すると、少女は反射的に俺の手を振り払ってきた。
「あ……すいません。でも、結構ですから」
「いたぞ! あそこだ!」
ちょうどその時だった。
暗い路地の向こうから見えてきたのは、何人かの柄の悪い男たちだった。
「あ……そんな……」
と、男たちが見えてくると、少女はおびえた顔でソイツらを見る。
「へへへ……どこに行こうっていうんですか。お姫様」
やってきた男の一人が下品な物言いでそう言った。
「まったく……手間掛けさせんで下さいよ。こりゃあ、あの方に追加の料金を頂かないといけねぇなぁ」
「くっ……あ、貴方達! それでも兵士ですか! 金で動いて……誇りはないのですか!」
少女は精一杯強がりながら男たちに向かって叫んだ。
しかし、男たちは少女が恐れるに足りない存在であることを十分に承知しているのか、ニヤニヤしながら彼女を見ている。
「ああ、ないね。俺達は兵士であると同時に、傭兵なんだよ。傭兵は金で動く。確かに俺達は昔アンタに忠誠を誓ったかもしれないけど、今でも金であの方に雇われているんだ。悪く思うなよ?」
そう言いながら男たちはゆっくりとこちらに近づいてくる。少女は困り顔ながら、じりじりと近づいてくる男たちを見つめていた。
「で、そこのアンタ。邪魔だからどっか行ってくれないか?」
と、先頭の男が俺を見てそう言った。俺もそう言われてようやく、自分が厄介なことに巻き込まれている事を知った。俺はもう一度少女の方を見る。おびえた顔で、助けを求めるように俺を見ている少女。
似ている……確かに似ている。リザに似ている。世界中に自分に似ている人間は三人いると言うが、おそらくリザにとってのその一人がこの子なのだろう。
だとしたら、この子を逃がすわけにはいかない。なんとしても、俺がこの子を手に入れなければいけない……
ガラにもないが、俺はその時、少女にとっての唯一の盾となる存在であると自覚していたのだった。
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