第5話 ある男の十年 その4

「ロスペル。アンタに一つ聞いておくよ」


「ん? なんだ?」


 目の前に完成した「魔人形リザ」を見ていて、とても満足していた俺にシコラスは訊ねた。


「そのリザってアンタの恋人は、ホントにアンタに会いたいと思っているのかい?」


 その時シコラスが俺にした質問は、まったくもって意味不明なものであった。


「……なぜ、そんなことを聞くんだ?」


「そりゃあ、人形の完成に関わってくるからさ。後で教えるが、人形を完成させるには色々と条件が必要なんだ。その条件の一つとして、アンタの愛しいリザがアンタにもう一度会いたいかどうかが問題なんだよ」


 俺はそれを聞いて、一安心した。なぜなら、そんなことは火を見るより明らかなことだからだ。


「ああ、もちろん、リザは私に会いたがっているに決まっている」


 俺は自信を持ってそう言った。


「そうかい……それなら、私は別に構わないんだけどね……まぁ、せいぜい最後まで気を抜かないことだよ」


 すると、シコラスはしばらく私を見た後で、いつものようにニヤニヤとした笑みを浮かべたまま部屋から出て行ってしまった。


「まったく……魔女という人種はよくわからないな」


 俺はそう言いながら、目の前でほぼ出来あがっていた「魔人形リザ」をもう一度眺め、この上なく充たされた気持ちになったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る