第3話 ある男の十年 その2
十年。この十年というのは、俺、ロスペル・アッカルドにとっては、最悪の十年だった。
現在俺は二十七歳。最愛の恋人、リザ・クレスターニを失ってから、十年も経ったということだ。
「……十年、色々あったなぁ」
街の中を歩きながら俺は独りそう呟く。そう。色々とあった。
まず、戦争があった。俺が住んでいる国はズール帝国という。俺とリザが住んでいたと村もそうであったし、今俺が歩いている街もそこに属する。
十年前の戦争は、先代ズール皇帝の後継者争いによるものであった。第一王子と第二王子が争い、結果として第一王子が勝ち、現在皇帝の座にいるのだが……そんなことはどうでもいい。
問題なのは、その戦争のせいで、俺の愛しいリザが巻き添えを食ってしまったとういうことだ。
ある日、戦争に駆り出されていた俺が村に帰ってくると、無残にもリザの家は荒らされ、リザ自身も無残な姿で殺されていた。
俺は、嘆いた。なぜ、リザを救えなかったのか、と。
そして、恨んだ。自分は今まで努力してきた。リザと幸せに暮らすために。兵士として戦場へ赴き、死なずに帰ってきたのも、リザと幸せな暮らしをするためだ。
それなのに、そんな努力がすべて水の泡になった。だが、俺は努力家だ。だからといってあきらめきれなかった。俺は、どうしてもリザと幸せに暮らしたいと思ったのだ。
ならばどうすればよいか。答えは簡単だ。
もう一度努力すれば良い。リザと幸せに暮らすことができるように。そのためにはまず何をしなければいけないかといえば、答えは簡単だ。
リザを、今一度俺の目の前に存在させなければならない。何を狂ったことを言っているかと思われるかもしれないが、俺は本気だった。
戦争中、俺は様々なうわさを聞いた。世界に存在する不思議な生き物の存在、そして、戦争の原因となった王家のゴタゴタ……その大部分は俺にとってどうでもいい話であった。
しかし、一つだけ気になるうわさがあった。それは「魔人形」の噂だ。
なんでも、帝国内では魔法の研究をしている機関があって、そこでは不死身の兵士を作る目的で魔法によって動く人形を作っている、という噂だった。
もちろん、そのすべてがあまりにも滑稽で到底信じられなかったが、リザを失い、正確な判断が出来なかった俺がすがるには十分なほどに魅力的な話だった。
なぜなら、「魔人形」は人形でありながら、人間とほぼ変わらない見た目をしているという。
そこで、俺は思ったのだ。
もし仮に魔法で人形を作れば……もしかすると、リザをもう一度「作る」ことができるかもしれない、と。
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