第2話 父の出兵

「あっ、どもっ、ロウです。なんだか知らないけどこの物語の主人公を任されたみたいで少し困惑してまーす。だってさ〜、昨日いきなり、君、明日から主人公ねって急に言われてさー、でも主人公って響きがカッコ良かったからさ〜、訳も判らずOKしちゃったんだよね〜、大体さ僕の物語を読んで何が楽しいの?僕悪いけど貴族なんだよ?金持ちだしさ〜、イケメンだしさ〜、リア充を絵に書いたような人間だよ?大した事なんてある訳ないしさ〜、そんな人間の物語なんて読んでないでさ、彼女とか彼氏とかとさ「ピー」したりさ〜、彼女とか彼氏とかいないならさ〜、1人で「ピー」してた方がいいんじゃないの?あっ、ヤベー親父が帰って来たからそろそろ君との会話はお終いだ、じゃあまたね〜。」


「ガチャ」


玄関を開けるドアの音が僕の部屋まで聞こえて来た。


僕の部屋は2階にあり、比較的玄関に近い為、人の出入りがすぐに分かる。僕は窓の外を覗いてみた、屋敷の外には沢山の兵士が来ていた。彼らは全て父の護衛にあたっている父の部下達だった。父は護衛されるのを嫌がっているが部下達が父を心配し常に何百人もの護衛が付いていた。


「おかえり」


「ただいま」


母と父の声が聞こえて来た。


何処となく父の声が暗い…

そんな気がした…

僕は父の声のトーンが気になり下に行く事にした。


「おかえり」


僕は恐る恐る声をかけた。


「あぁ、ただいま」


父はいつもの笑顔で僕に返事をした。

(何だいつもの親父じゃん、気のせいか。)




家族3人で食事をしている時

父が急に言いだした。


「明日から北に行く…」


父は少しうつむき加減で言った。

母はその言葉に驚き、みるみる涙目になった


静寂が暫く続いた…


母は暫くうつむいたまま泣いていた…

父は申し訳なさそうに僕と母を見ていた…


「ガタッ」


父は椅子から立ち上がり母の側に行き抱擁した。


「いつ帰って来るの?」


母は震えた声で父に聞いた。


「分からない」


父は申し訳なさそうに言って


「必ず帰って来るから泣かないでくれ」


と付け加えた。


また静寂が続いた…




重苦しい空気を打ち消したのは家で飼っている猫だった。


「ダダダダー、ドン、ガチャン」


猫が何かにぶつかって何かが割れる音がした。

驚いたその瞬間3人は目が合い

なんだなんだと3人で音がした方向に歩いて行いった。


「あーあやっちゃったよ」


と僕。


「こらっ」


と母は涙目のまま猫を叱り抱き抱えた。


父の顔を見ると涙目になっていた…


猫が割ったのは父が大事にしていた壺だった…




そう言えば父がこの前、僕にこんな事を言っていたな…


「どうだロウこの壺最高だろう?」


と父は満面の笑みで僕に尋ねた。


「よく分からない」


と僕が答えると。


「そうか分からないか」


ちょっと残念そうに父が言うと


「ママには安物って言ってあるんだけどな、この壺1つ売るだけで豪邸が何軒も建つんだよ、父さん一目見て気に入っちゃってさ奮発してついに買っちゃったんだよ」


少しでもこの壺の価値を僕に分かって貰いたかったのだろう父はいつ地雷源になるか分からない僕に秘密を打ち明けたのだった。


(これで当分お小遣いには困らないな)




片付けはメイドさんに任せて3人は食卓に戻った。母は猫の一件で正常を取り戻したようだった。父は逆に正常を少しとり乱している感じがするが…


「今から明日の仕度をして、明日の朝6時に出発するよ」


母の様子を伺いながら父はさりげなくそう言った。


母は小さくうなずいた。


母も僕も分かっていた…

中央政府の命令は絶対であり、父を止める事なんて絶対に出来ない事だと…

母はどれほど出兵する父を引き止めたい事か…

母の気持ちを思うと僕の胸も苦しくなった。


これが最後の会話になるかもしれない…

母も僕も涙目になっていた…





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る