殺しちゃったなら仕方ない

一瞬停止。


「それ」はスローモーションの様に流れて落ちていく。

大きなゼリーのような、けれど鈍い音を床から鳴らす。


誰かが甲高い声で叫ぶ。



「それ」を切断した大柄な男は先程の半狂乱より至って冷静に「その2つ」を見つめていた。


「何してんだ!!」と黒い牧師のような男が声を荒げた。



その刹那―


大柄な男が見えない鎖のようなもので締め付けられる。

白い装束を被った小柄な女が右手を前に出し、左手で右手首を抑え、何かを唱えている。


締め上げられる大柄な男。

「・・・ぐぅう・・・やるじゃねえか・・・ねえちゃん・・・」


その声を聞いたか知らずが、さらにきつく、見えない鎖が締められる。

「っく・・・」

体制を崩し、近くにある小瓶のようなものが転がった。


「そのまま縛っていろ」

冷たい声。

長身で髪が長く、細身の人間が、どこから取り出したかそれまた異様に長い槍を構えた。


「待って!!!!」

赤髪で、肩が露出している民族衣装のようなものを身に纏った女が叫ぶ。



「殺さないで!!!・・・殺し合いは・・・やめて・・・」

先程男の声で涙を流していた女は、無理矢理、そのか細い声をだす。



「それならお前が死ぬか」

冷静に矛先を向ける。

男か女なのかも判断がつかない、綺麗な顔立ちだった。



「まーまー殺しちゃったなら仕方ないでしょ。みんな落ち着こうよ。」

やけにニコニコした目の細い男が声を掛ける。

金髪の髪はボサボサだが、身に纏っている鎧は輝き大層なものだということはひと目で分かる。


その重さを全く感じさせないような動作で、どこからともかく現れた。


小柄な女が唱えるのをやめると同時に、大柄な男が崩れ落ちる。


隙かさず、長く黒い槍は早く、そして金髪の男の顔目掛けて一直線に刺さった・・・ように見えた。



「やめなよ、死ぬよ?」

その金髪の鎧の男は、いつの間にかその槍使いの隣で笑顔で声を掛けた。


槍使いは瞬時に後ろに退いた。




「まあ、本当にちょっと落ち着こう。みんな気が立ち過ぎだって。」

ニコニコと、そしてひどく軽い調子だ。




「ほら、端に居るみんなも集まって、ね?自己紹介しようよ。」



「わ、わたしも・・・1度落ち着いて話し合いましょう・・・」

殺さないで!と叫んだ女が、目を腫らせながら、声を絞り出した。



全員が金髪の男を注視する。


「自己紹介とか皆んな苦手な感じ?仕方ないなあ。じゃあ僕から話そう。」

身振り手振りで周りに伝える。

喋りすぎ、という感じではなく、テンポとリズムが聞きやすく、くどくない。



「僕はね、魔王を倒した勇者だよ。」


遠くの方で誰かが「えっ」と声を漏らした。



調子のいい口調で、自己紹介が続く。



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