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「スミレ、そっちは上手くいっている?」
大学を卒業して数年の月日が流れた。
平日の昼下がり。スミレは出張で偶々こちらに来ていた親友と、会社の昼休みを利用して数年ぶりの再会を果たした。
「ボチボチって感じ」親友の問いにスミレは笑顔を浮かべた。
「さっすがだわ。あんた、スタミナだけはあるもんねぇ。こっちなんて残業ばかりで溜まったものじゃないわよ」
毒吐く親友は項垂れた。化粧で隠してはいるが、その目元にはくっきりとくまが出来ている。
彼女曰く、定時に帰れる日はないらしい。毎日残業、残業の連続。ようやく得られた休日も出張の移動に奪われるのが当然らしい。
「そんなに辛いならやめればいいのに」
スミレが呟くと、親友はガバッと顔を上げた。「それで生きていける程、世の中は甘くないんだよねぇ」やめられたら、とっくに辞めている。彼女は最後にそう付け足した。
「ふぅん、そういうものかな」
スミレには彼女の気持ちが分からなかった。スミレの会社も確かに残業が多いが、それほどハードな仕事量だとは感じられない。睡眠時間が3時間もあれば、彼女にとっては十分だ。
「スミレと一緒にしないでよね。私はあんたと違って、睡眠が必要なの」
親友はスミレのことをジロリと睨み据えた。「ほんと、あんたのことが羨ましいわ」彼女の視線は、スミレの左手の薬指に嵌められた指輪に向けられていた。
「私は婚期を逃したっつーの」彼女は青空に向かって、大声で叫んだ。「あぁ〜、早く結婚して人生寝て過ごしたい」
「そんなんじゃ、いつまで経っても結婚できないわよ」
スミレは笑いながらに言った。「うるさいわね。在学中に結婚を決めたあんたとは違うのよ」と、親友は唇を尖らせた。
スミレは時計を確認すると立ちあがった。「じゃ、私はそろそろ行くね」
「うん、いってらっしゃい」親友は立ち去るスミレの後ろ姿に手を振った。
「ほんと。あの娘、変わったわね」
いつかの恋について尋ねていた頃のスミレが懐かしい。親友はそっと頬杖を付いて、立ち去る彼女の後ろ姿を見送った。
想い出の売人 天音川そら @10t
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