第5話 KKB75

 ここは県北西部に位置する小さな村である。人口は855人、主な産業は「林業」であった。

「平成の大合併」の波にもまれながらも明治以降の『村』を存続し続けてきた。そして27代目村長の「石部権三郎」は78歳の後期後期高齢者でもあった。

 この村が存続できているのも「林業」のお陰なのだが、従事者も年々高齢化が進み、どこまで維持できるか厳しい局面に立たされている。

 やはり若者が増えないことにはどうしようもない。しかし若者に魅力のある村でなければ定住はしてもらえない。仕事場だけではなく、娯楽や大型店がないと難しいのである。


「ふるさと創生事業」で音楽ホールが建てられたのが28年前である。今では老朽化が進み補修工事ともなれば財政を大きく逼迫する。解体も検討されたが、名残惜しんだ住民の声に再検討のままとなっている。

 石部村長は今日も職員幹部と村の世話人代表らを集めて「これからの村の創生」について会合を開いていた。

「皆の衆、若者が集い、そして定住を促す名案はないかのう?」

 すると一人の世話役が言った

「わしの孫がABCなんちゃらという可愛いおなごの子らが踊って歌っているのを毎晩の様に見とるけど、あれがええのではないか?」

「聞くところによると色んなグループが地方にできてるらしい」

「この村にもあんなグループを作ってあの音楽ホールでショーをやったらどうじゃな」

「若者が集まりゃあ活気も出るし、うまくいきゃあ恋愛や結婚もしてくれるかもしれんし、この村が注目してくれたら特産の加工品も売れると思うんじゃが」

 それを聞いた石部村長は

「それは名案だ!そうだこの村に『ABCガールズ』を結成しよう!そして大々的にPRするんじゃ!」と声高らかに立ち上がったのである。

「村長!まずご指摘を申し上げますと、ABCではなく『AKB48』フォーティエイトです。それと何と言ってもそのメンバーに該当する若い女性、一応30歳以下の未婚の女性とした場合ですが、我が村には1歳の赤ん坊を入れても14人、労働基準法に準じて15歳以上とすれば6人しかおりません、もし中学生以上であれば9人となります」と住民課長が述べた。

「9人か」「9人でもええやろ、どうや?」と村長が。

「村長!逆に若者ではなく75歳以上の高齢者グループなんてのはどうでしょう?」

「歌って踊れる後期高齢者グループ、これは評判になると思いますけど」と一番若い建設課長が言った。

「それはいい!今や高齢者は村の中心メンバーです。高齢者の方々の『生き甲斐作り』にも一役担うことにもなります」と教育長が言った。

 すると世話人達も賛同をして『後期高齢者グループ・プロジェクト』が採択されたのだった。

 直ぐさまチラシを配布して「オーディション」が開催され、こちらはAKBの数字にあやかってメンバー48人が選ばれた。

 ユニットの名前は『KKB75』後期高齢者バンドを略したグループ名が付けられた。

 そして振り付けや楽曲の専門家を招き入れ練習を重ねた。結成から半年、いよいよデビューの日取りが決まった。そしてある限りの予算を使って近隣へのPR活動を行った。

 そしていよいよ『KKB75』初のコンサート開催の日がやってきた。

 村長が「何かあのビートルズがやってきた様な胸騒ぎがする。もうあとは神に祈るしかない」と手を合わせてホール前で待っていた。

 

 そして開演1時間前になると、続々と観光バスがホールへと集結して、大勢の後期高齢者と思われる男女でホールの席は埋め尽くされたのだった。

 

 拍手喝采のフィナーレを迎え、メンバーの代表者が挨拶をした。

「これからは私達高齢者の時代です!もっともっと人生を楽しく生きて行こうではありませんか!もっともっとこの後期高齢者バンドを全国に増やしてまいりましょう!!」と。


 そしてその2年後には、全国に48もの『後期高齢高齢者バンド』が結成されていったのである。

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