第7話 太陽光発電

「お前んところの畑もしたか。俺んところの田んぼもするこにしたぞ」

「ああ、もう野菜作っても食べ切れんし、もう作るのも面倒になってきた」

「そうじゃ、米も作ってみても結局赤字じゃからのう。機械に金使うぐらいなら旅行にでも行った方がましじゃ」

 こんな会話が農村地帯のあちこちで聞えてくる。少し前まで畑や田んぼがあった土地がいつのまにやら『太陽光パネル』で埋め尽くされている光景が珍しくなくなってきた。


「こんにちは!サンウエストの上見光太郎と申します。今日はお宅の田んぼに『太陽光発電』は如何かと思いましてお伺いいたしました!」

「おう太陽光か、ありゃあどのくらい掛かるんじゃ?少しは儲かるんか?」と田んぼの持ち主が尋ねる。

「ありがとうございます。勿論最初の投資は用意して頂きますが、約10年ほどで元は取れますし、その先は利益がどんどん入ってまいります。初期費用も無担保貸付でご準備いたしますので、お客様には契約書だけ頂ければ一切お金は要りません。よろしければこれからご説明をさせて頂きますが如何でしょう」と此路10年のベテラン営業マンは畳み掛けていった。

「ほう金は要らんのか。10年か、あの田んぼも若いもんはすりゃあせんだろうし、休耕田にするくらいなら『太陽光』にして年金の足しにした方がましじゃな」

 こうして一時間余りの説明で用意された契約書に印が付かれたのである。

 契約してから一ヶ月後には専門の業者がトラックに機材を積んで田んぼにやってきた。事前に田んぼの地ならしは済ませ、切り株が残っていた田んぼは綺麗な砂土が敷き詰められている。

「ふー、先祖代々受け継いできたこの田んぼも年貢の納め時か。ちいと申し訳ないのう」と地主の爺さんが呟いた。


 此路ではベテランの営業マンになってしまう『上見光太郎』は、今日は新規契約を目指してゴルフ場にやってきた。

「今日で何度目になるだろう」

 もうこの『飛鳥カントリー倶楽部』に通い始めて一年近くになる。個人相手の契約も売上げの一つだが、やっぱり大口の契約が欲しいと思い、このゴルフ場に出入りし始めたのである。最近はゴルフ人口も減り、バブル期に繁盛した地方のゴルフ場は今や閑古鳥が鳴いている。経営も厳しくなり売買か閉鎖か、見切りを付ける刻がきているようだった。

 そんな経営悪化のゴルフ場の話しを耳にして「これはいける!」と上見光太郎は閃いたのである。あれだけの敷地面積があれば『メガ発電』がいける。パネル数はおおよそ15万枚を越えるだろう。契約価格はもちろん億単位だ。

 飛び込み営業から八度目にして支配人、そして代表取締役と面談することが出来た。見積書を提出してから三ヶ月が経つ。


「そろそろお返事は如何でございましょうか?」

「そうだな、売電単価も下落傾向にあるし、やるなら今しかないか」

「そうです、必ずしも見込み通りの収支とはいかないかもしれませんが、必ず利益はあがります。投資としてはかなりの利回りと考えてよろしいかと存じます」

「わかった。それでは太陽光発電の設置契約をしよう」と答えてくれた。そして

「君は優秀な営業マンであり向上心が強そうに見える。これからはその力をさらなる自然環境の発展に生かさないか」と代表取締役である「浅野善行」氏が誘い文句を掛けてきた。

 そして代表者は契約書の中に、ある特別な条件を加えて成立させた。


 いよいよ発電設備工事が始まった。そして土地の「三分の一」には新しい建物の建設工事も着工された。その建物とはやがて訪れるであろう「撤去と回収」そして『太陽光パネルのリサイクル施設』の専門業者を目指しての「研究棟」であった。

 そして営業マンの上見光太郎は、今とは逆のノウハウで太陽光パネルの『撤去と回収』の専門アドバイザーとして、その会社の役員として迎入れられる隠密の取引契約をしたのであった。

 がしかし、その工事が完成する目前になって、「売電総量規制法」が変更され電力会社との契約が不履行となってしまった。メガ発電は未完成のまま会社は倒産してしまった。

 工事の完成が三ヶ月早ければ問題はなかったのだが。全ての計画が、水泡に帰してしまった。

 そして「うまい話には気を付けろよ」と営業マンが自嘲気味に口ずさんだ。

 

 (この作品はフィクションです)

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