第2話
朝から外は賑やかだ。そういえば、今日は建国記念日だった。昨日の晩餐会で、兄が騒いでいるのを私は思い出した。子供みたいにはしゃいでいた兄。そんな兄を見て私は笑みをこぼした。私よりはしゃいでいるなんて。こっちが恥ずかしい。今日は、皆一日中遊び騒ぐ。宴は楽しい。だけど、準備が面倒だからあまり好きではない。私はいつも湖に行ってさぼっている。宴は皆が参加しなければならない決まりなので、グルヴェイグに行ってもらっている。グルヴェイグは、私がセイズという魔法を使って創り出した自分の分身だ。容姿や性格はほとんど同じだが、兄に対する接し方が私よりも優しい。以前気になった時に、私は彼女に問いただした。
「グルヴェイグ、フレイのこと好きなの。」
それが、単刀直入過ぎるのにも程があったことを私は後々気づく。
「そんなの決まっているじゃない。だけどね、私はフレイの事が好きなんじゃない。愛しているの。好きなんて言葉じゃ収まりきらない。勘違いしないで。」
彼女がこんなにもきつい言葉で話すとは思っていなかった私は、思わず口が開いた。それからは、彼女と話す事は兄の話題だけだ。昨日は何をしていただとか、私の事を愛しているかだとか。正直どうでもいいことだ。まあ、それは云わないが。そんな事を思っていたら、せっかくの自由に出来る時間が短くなる。自分の分身をすばやく創り出し、湖へと向かった。
真っ青で透明な湖。私は一人、湖の淵に腰をかけて湖を見つめていた。見惚れていた私は、遠くから近付いてくる影に気づかなかった。そんな事、今まで一度もなかったのに。
昔から、気配を感じ取る能力にはたけていた。他も優れていたのだが。だから、私は驚愕した。心の底から驚いたんだ。
「君、何をしているんだ。」
頭上から声がした。見上げると、そこには男が立っていた。驚いた感情が彼に伝わらないように、私は平然を装おった。
「貴方こそ、どうして此処に来たの。」
質問を質問で返してしまった、つい。すると彼はゆっくりと口を開いた。
「湖を、水を、感じに来た。」
拍子抜けすることを彼が云ったので、私の頭の中は疑問でいっぱいだ。
「はい?」
訳が分からないので、私は聞き返した
「君は、違うのか。そうか。違うのか。」
またもや意味不明の答え。彼は一体何を考えているのだろうか。私にはさっぱり分からない。すると彼は、湖の中に入っていった。水しぶきが私にもかかる。というより、びしょ濡れだ。私は水を手で掃った。無言の時間が流れる。
「君は。」
彼が水中に出てきて、私に一言掛けた。ただ、「君は。」と声を掛けただけ。それだけ。私は吸い寄せられるように、湖の中へ堕ちて行った。私たちはこの水の中でたった二人。時が止まったよう。二人だけの時間。何も、何一つも感じない世界。そんな世界に私は、沈んでいく。深く、より深く。沈んでいく。堕ちていく。私だけが――――。
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