番外編 この夢見る兄に本物の魔法使いを!

※時間軸は決まっていません。



それは、カズマの一言から始まった。


「一度、本物の魔法使いって奴を見てみたいなぁ」


ギルドの酒場で軽く食事を終えたカズマは、お茶を飲みながらそんな事を呟いた。

その言葉に目の前にいためぐみんがスプーンを取り落とし、ポカーンと口を開け茫然とする。


「……い、今なんと言いましたか?」

「え?いや、一度本物の魔法使いを見たいなぁと。この街にも魔法使い職の奴は多いけどさ、俺のイメージの中の魔法使いって感じじゃないんだよな」



「「「「…………」」」」



その言葉に、ギルドの中の空気が変わった。


「カズマ、この場の魔法使いに喧嘩を売っているのですか?魔法使いの名門を輩出する紅魔族として、今のは聞き捨てなりません。

カズマの持つ、魔法使いのイメージとやらを言ってみて下さい。この中にカズマのイメージに当てはまる者が一人でもいれば、謝ってもらいますよ」

「いや喧嘩売ってる訳でもないんだけどな。俺の中の魔法使いのイメージってのはさ……」


カズマが魔法使いのイメージ像を語りだすと、ギルド内の魔法使い達が無言になった。

一見興味ないフリをしているが、酒を口にしながらカズマ達に聞き耳を立てているのが分かる。


「まず博識で、モンスターの弱点をすぐ見抜いて、パーティーがピンチに陥ったらそれを切り抜ける知恵を出してくれたり。

奇跡の技である、魔法って物に高いプライドを持っていて……」

「いっぱいいますよ!いっぱいいます!!そんなのこの場に、沢山いますよ!!」


カズマの語る魔法使い像に、めぐみんがテーブルをバンバンと叩き抗議する。

他所で聞いている他の魔法使い達も、その言葉にうんうんと頷いていた。


「……魔法って物に高いプライドを持っていて、下らない事に魔法を使ったりしない人かな。

……例えば、ティンダーの魔法で酒のつまみのイカを炙ったり。蒸し暑い夜、馬小屋の中にブリザードの魔法を放ったはいいものの、朝には溶け、馬小屋を水浸しにして怒られたり……」


その言葉に、正に今皿の上でイカを炙っていた男と、他数名の者がビクッと震えた。


「あとはまぁ、お湯が温いって騒いでファイアーボールを共同浴場に撃ち込んで火傷した奴とか。

金が無いからとはいえ、自慢の必殺魔法を土木工事のバイトに使う魔法使いとか……」

「もう止めて下さい!!私達が悪かったと認めますから、それ以上は止めて下さい!!」


めぐみんの制止により、カズマはそれ以上口に出すのは止めた。ギルド内の魔法使い達が居心地悪そうにソワソワする中、カズマは話を元に戻した。


「まぁ話は逸れたが、俺はちゃんとした魔法使いを見たいんだよ。だって、この街の魔法使いってアレだろ?気分次第で攻撃魔法ぶっ放して筋肉ムッキムキの前衛職とも平気で喧嘩したりしてるじゃないか。

魔法使いってのはもっとこう…温和で冷静、思慮深いってのが俺のイメージなんだよ」

「わ、私は結構思慮深く……。すいませんすいません、いつも考えなしに爆裂魔法をぶっ放してますごめんなさい!そんな目で見るのは止めて下さい!」

「……まぁ、兎に角だ。本物の魔法使いを見たい。そうだなぁ……例えばこのギルドの中に、魔導書とか持ってる奴はいないのか?

本職に、魔法の本の解説とかして欲しいな」


そう言うと、カズマはずっと聞き耳を立てていた周りの魔法使い達を見渡した。

すると、その場の全員が目を逸らす。


「一人もいねぇのかよ!!古の魔法の研究だの魔法陣の解析だの錬金術の実験だの!!魔法使いっていったら研究者みたいなイメージがあるだろ!?おいそこ、イカ炙ってんじゃねぇ!!」



†††††††††††



薄暗い部屋の中。

禁じられた呪文でも唱えるかの様な、重々しくも朗々たる声が響き渡る。


「大地の力を閉じ込めし物、母なる海の水の結晶……。紅く…紅く…!紅く瑞々しい悪魔の果実よッ…!!異形の悪魔の肉と共に、我が業火にて在るべき姿に形を変えよッ……!」


闇色のローブを深く被ったその者は、昂ぶる興奮を最早抑えようともせず、得も言われぬ香りを漂わせた鍋の前で、大仰に両手を上げた。


「我が力により在るべき形を歪められたモノ達よ!!我が血、我が肉、我が糧となれ!!」


……めぐみんは満足そうにそう唱えると、深く被っていたフードを跳ね除け、出来上がったカエル肉のシチューを皿に盛る。


「なぁ、これってシチューだよな?これ作るのに今の怪しげな儀式は必要だったのか?」

「当たり前ではないですか。今のは言霊と言って、ちゃんと意味のある行為なのです。これを行う事により、安く頂いてきた傷物の食材を、最高級の食材へと変化させる事が出来るのですよ」

「……へえ、流石魔法使い。そんな事が出来るのか。魔法使いらしい所を見せてやるとか言っといて料理を始めたから帰ろうかと思ったが。

…これって本当に、魔法の実験だったんだな」

「まぁ嘘ですが。単にシチュー作っただけですし、料理中の口上も私の気分の問題で……ひたたたた!ごへんなはい、やめてくらはい!!」


カズマがめぐみんの頬を引っ張っていると、この薄暗い部屋の外で、バタバタと人が走り回る音がした。

魔法実験っぽい物を見せてやるとめぐみんが言い出し、ギルドに頼み込んでこの厨房を借り、そして現在に到っているのだが。


「おい、頭の可笑しい娘が時間稼いでる間に早く準備を!!アイツに本物の魔法をッ!!」

「ねぇ!魔法陣ってどうやって描くんだっけ!?使い魔召喚の魔法陣誰か知ってる!?」

「水晶球とか魔法使いっぽくないか!?あれって何処で売ってるんだっけ!?」


魔法使い達がギルド内で大騒ぎをする中、カズマはめぐみんの作ったシチューを啜り…先ほど自身が言った発言に後悔していた。


「すまんかった。俺の不用意な一言で、こんな騒ぎになるとは思わなかった。……これ美味いな」

「全くです、魔法使い職の者はプライドが高い者が多いんですから気をつけて下さい。……おかわりはいりますか?」


めぐみんからおかわりのシチューを貰っていると、厨房のドアが開けられて……


「準備出来たわ!さぁ、今から本物の魔法使いってやつを見せてあげる!」



……どうしてこうなった。



「フフッ、まあ聞いて頂戴な。魔法使いと言えば?そう、ズバリ!」

「あんた、その年で魔法少女とか言ったらはっ倒すからな」

「ッ…!?…………グスッ…」


ゴスロリの様な奇抜な格好をしたお姉さんが、涙目になって引き下がる。


「マジかよ、魔法使いといえば爺さんだろうと思って折角付け髭買って来たのに……」

「お、俺はハンカチから鳩が飛び出す魔法を披露しようと、公園で鳩捕まえてきたのに……!」


それは魔法じゃなくてマジックだろう。

と、魔法使い連中がざわめきだしたその時だった。


「ねぇ、君の言う本物の魔法使いって一体どんなの?思い描いてる魔法を教えてくれない?」


一体何をするつもりだったのだろうか。

ハンカチと鳩を抱えた男の隣で待機していた、バニーガールの格好をしたお姉さんがカズマに尋ねて来る。

カズマはこの街の魔法使い達に、そんなに難しい事を要求してしまっただろうか。そこまで難しくもないと思うのだが。


例えば、お菓子の家を出す……。

いや、それは御伽話の魔法使いで、そんな事を要求してこれ以上ハードルを上げれば、この街のお菓子屋さんと子供が泣く事態になるだろう。


他に魔法使いが出来る事……。

カズマがそう考えていると、額に傷のある少年…あの有名な某魔法使いの映画が頭に過った。


「そうだ、空!箒に乗って空を……って、その顔じゃ無理そうだな」


困った表情を浮かべる面々を見ながら、カズマが言葉尻をすぼめさせたその時……ナギサが入って来た。


ガチャッ


「……あれ?なんで厨房でお兄ちゃんが皆に囲まれてるの?」

「「「「いたぁあああ!!」」」」

「え!?」

「いたぁああああ!!空飛べる魔法使い此処にいたぁあああ!!」

「えっ!?え、何事!?」

「そうだったオチビちゃんがいた!!」

「ナギサ、お願いがあります!!カズマを箒に乗せて下さいッ!!」


その後ナギサは揉みくちゃにされ、カズマを箒に乗せることになった。



To be continued…?

───────────────

後書き

これはWeb版の短編にあった話です。

箒で空飛ぶって聞いて、そういや妹飛べるじゃん!!と思いオチを変えてみたものです。

爆裂フラグ回避しました。


「お前だけだ、俺の理想を崩さない魔法使いは…!!」


次回はちゃんと本編です。

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