第3話
黒い猫。
ただようのは西洋の魔法使いの話。
静かにまどろむのはただ一匹の猫。
時間が巻き戻るのは満月の夜。
月がやけに明るい夜空。
ただ僕は純粋に正しく生きていくと鏡を見て自分の顔に誓った。
魔法を手に入れた日。
僕は激しい動揺の中にいた。
様々な体験をもとに僕は体にレッテルを張り続けていた。
慢心から自分に都合がいいように考えていた。
魔法使いの家で、暖炉で火を燃やす。薪を燃やして暖を取る。
僕は家の机に坐り、ただ恐怖していた。
恐怖が鎮まるまで僕は部屋の中にうずくまっていた。
ドアが深夜にノックされた。僕は扉を開けると、一匹の猫がいた。
「どうした?」と猫は僕の姿を見て聞く。
「ちょっと恐怖が」と僕は言った。
猫と共に机の上で暖を取る。こうしているうちも恐怖に震える。
僕は机の上でワインを飲んでいた。
ワイングラスががくがくと恐怖で震えた。猫はそばにいて僕を見ていた。
「いったい何があった?」と猫は聞く。
「何もない」僕はようやく平静を取り戻してそう言った。
時計の秒針が揺れる。いったい僕は何者なのか五年まえにさかのぼり考えてみる。
燭台の上に乗ったワインのボトル。僕が眺めるのはグラスだ。
魔法使いになり五年が経ち、僕は不安を抱えることが多くなった。
とりあえず怖かった。死に直面するというのは恐怖であり、生きるのもつらい。
夢の中で自分の恐怖の根源を見ると自分自身が映っていた。
忘れていたのは自らの性格。ずっと見ていないところだった。人間性を忘れていた人の物語。
扉の前に佇む。善良な人として皆で助け合い生きる。小学校の頃から願っていたのは世界平和。平和な世界で殺戮のない世界へ。飛び立とう。
長い間忘れていた。自分中心の世界がもうすぐ終わるのか。魔法使いの杖はいったい何をしたのだろう。
「お前はいったい何を見ている?」と猫が僕に聞いた。
「善良に生きるという教えだ」と僕は言った。
ランプを灯す。ゆらゆらと周りの空気が揺れる。光は歪む。暖かい。
臆病に震える蝋燭の灯火のような心。神経質なほど過敏な情景。眺めるのは己の世界。星座の夜のような世界と人間に怯える景色。
猫は暖炉の元で丸くなり眠る。静かに。そして和やかに。
僕はというと机の上で手紙を書き続けた。誰にも宛のない手紙を。
元気にしてますか? という一文で始まる。
僕は魔法使いになりました。とても孤独な日々を過ごしています。猫がいます。友達です。他には村で買う食材と広めのこの家しかありません。
片手が震える。いったい魔法使いの僕が魔法使いであるという認識がとてつもなく奇妙で震える。
現実はいったいなんだろう。目の前に移ろうのは賑やかな人の群れを見た記憶だった。
皆夢を見ている。誰もが何かになろうとしていた。僕は静かな生活を送る。
まるで余生のようだ。こうやって一人でいるのが落ち着く。
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