Episode: 04-03 信仰

 ――季世は、子供のころ高熱を出して寝込んだという。


 医者の診断では助かる見込みがなく、そうとなれば苦しみを長引かせないためにも、死なせたほうがいいと勧められた。貧しい村で、父親が亡くなっていて、親子で生きていく日々は日増しに苦しくなっていた。


「季世。ごめん。ごめんねえ」


 母親は泣いていた。

 でも、その手は力強く、季世の細い首を絞めた。


 おかあさん。おかあさん。苦しい。やめて。

 訴える声は、呼吸と一緒に途絶えた。


 ――気づいたとき、季世の顔には白い布が重ねられていた。


 身体を起こすと、自分が真っ白い死装束を着ていることに気づく。

 線香の匂いが部屋に満ちて、枕元には、供え物の食事を載せた盆があった。

 見覚えがある。父親の葬儀を連想して、その時になっても、季世は自分の身になにが起きたか分からずにいた。


 部屋には母親がいて、季世を見て表情を凍らせた。


「お母さん。わたし、どうしたの?」


 母親は首を横に振った。絶望の濃い表情をしていた。

 疲れきった顔だった。


 季世は、やっと理解した。


 母の殺意とその結果について。

 それは、娘の苦痛を終わらせるためではなかった。


 おそらくは間引きのために、その手にかけたのだろう。

 季世はもう一度母親からの加害を受けた。

 でも、死ななかった。

 ぐったりと力を失った季世を、母親は空っぽの蔵に閉じ込めた。


 用意された墓に葬られたのは、一体何だったのか。

 葬式はつつがなく終わって、季世は死んだことになった。

 母親だけが、季世の本当の居場所を知っていた。

 季世を隠したまま、暮らしていた。


 蔵は、米や日用品の貯蔵庫だったようだが、何もかもが売り払われた後だった。

 がらんどうの空間に闇だけがあった。

 時間の経過も分からないまま、季世は蔵で生きていた。

 食べ物も水もない。土くれを口に入れて飢えを紛らわそうとした。


 きっと、そのとき、繰り返し死んでいたのだと思う。そう季世は言う。


 死にながら甦り、再び死に、また蘇る。

 腐りながら、生きている。生きながら、腐り果てていく。


 ある日、目に酷い苦痛を感じた。

 それは、久しぶりに見た外界の光だった。

 目蓋越しにも刺激が強い。

 明かりの中、黒々とした影が、こちらの様子を窺っていた。


 母親だ。

 助けにきてくれた。

 全部、なにかの間違いだった。

 元の暮らしに戻れるんだ。


 差し伸べられる手を期待した季世の耳に、声が届いた。


「どうして、まだ生きているの」


 それが、最後に聞いた母の声だ。


 ――それからのことは、後からの推測でしかないという。

 理性も知能も、そのとき保たれていたのか、分からない。


 再び、目蓋の上に強い光を意識する。


 薄く開いた視界の中に、差し伸べられた手を見る。

 幾度となく、数え切れないほど、この種の空想に裏切られた。

 それでも季世は、裏切られると分かっていても、差し伸べられた手を取った。

 このときも、同じだ。


 だけど、はじめて感触があった。


 握り返されて、久しぶりに自分の身体を自覚した。


「もう大丈夫。心配ない」


 低く、静かに響く声だった。


 それが、季世を救った人だった。



 ――一九四五年。

 季世はある農家の蔵から助け出された。

 蔵は崩落していて、季世は迷い込んだ戦災孤児ではないかと推測され、その男に引き取られることになる。母親が季世を蔵に閉じ込めたのが、一体いつのことか判然としない。

 あとで資料を照らし合わせて、季世の生年は一九一三年に記録があったと分かったのも昭和の末期になってからだという。

 同姓同名の別人でなければ、それが季世の生まれ年。

 計算すると、一八年近く、季世は暗闇の中で死と蘇生を繰り返しながら生き長らえてきたことになる。

 考え難い恐怖だった。正気を保っていたはずがない。それが唯一の幸いだ。


 記憶に残っているのは、僅かだけ。

 気づいたときには、もう外にいた。


 季世は幸に、そう語って聞かせた。

 幸は、多分、俺よりも感受性が豊かで想像力もある。

 俺よりも、もっとずっとリアリティをもって、深刻に、季世の過去を想像できただろう。そうすることで、幸の精神がどんな悪影響を受けたかわからない。


 季世への恨めしい気持ちを思い出す。

 でも、温かい料理の匂いが、俺の獰猛な気持ちを静めた。


「できた。お蕎麦」


「おぉ……ありがとうございます」


 何故か咄嗟に敬語になってしまった。

 季世が運んできたのは、つけ蕎麦だった。

 茹でたてで、よく冷やされたお蕎麦に、豚肉と長ネギを炒めた具が添えられている。白ゴマがふりかけられている。七味の瓶まで添えられ、至れりつくせりだ。

 座卓の上に麦茶のポットが置かれる。

 差し出されたマグカップにそれを注いでもらう。

 透明なグラスじゃないことだけが惜しい。

 支度が調い、食事に向かって手を合わせた。

 盛大に胃が鳴ってしまって、恥ずかしい。季世が、少し笑った気がした。


「いただきます」


 一食だって抜くのは耐えられない、食べ盛りで健康な自分の身体がふと愛おしくなる。いいぞ俺の身体。生きている、ってかんじだ。

 がつがつと食事を進める俺とは対照的に、季世は静かだった。

 静かだったが、旺盛だった。

 いつのまにか、気づかないうちに、皿を空にしている。


「……鯛焼きも、食べる?」


「あ――じゃあ、いただきます」


 空になった食器を下げて、再び季世がキッチンに立つ。



 お皿の上で、何匹もの鯛焼きが横たわっていた。

 それをつまみながら、様子を窺う。

 季世は『一口鯛焼き』という商品名のそれを、両手での指先で支え、三口に分けて味わっていた。大事そうに、一口ずつ噛み締めて、頬を緩め、見たことのない微笑を浮かべている。

 見ていると少しもどかしい。

 俺にはまったく物足りない一口鯛焼きを、ちまちま、ちまちまと……いっそ一思いに丸呑みしたほうが、鯛焼きの苦痛は一瞬で済むだろうに、あえてじわじわといたぶっているのだろうか。いや、鯛焼きに同情してどうする。

 どうでもいいことを考えるのは、ただの逃避だ。


「……最近、どうしてる?」


 核心から話せずに、遠回りな世間話を始める。


「文化祭が近くて、放課後は、練習」


「ああ、文化祭。何やるの?」


「朗読劇」


「なるほど、文化的だな」


 夏の気配は遠ざかり、季節はすっかり秋めいている。

 律儀に真面目に学校行事に参加している季世の姿は、想像すると、奇妙だった。


「……幸がさ、今は個室に入ってて。母さんがずっと付き添ってるから、見舞いには季世は来にくいかもな」


 季世は、幸の近況をどこまで知っているだろう。

 そもそも、幸が一命を取り留めたことさえ、伝えていない。

 だが。


「うん。幸に聞いた」


「え。聞いたの?」


「お見舞いに行った。お母さんのいないとき」


「行ってたのか、見舞いに」


「うん」


 おうむ返しの会話が続く。

 意外だった。

 あれから幸に会ってないのは俺だけなのか。

 俺だけが、ずっと戸惑ったままなのか。


 あの雨の日を思い出す。


 親密そうに寄り添う二人。

 近寄り難い雰囲気を作っていた。


 幸が季世を見るとき、目つきが違う。

 季世の話をするとき、笑顔が明るい。

 季世を悪く言うと、幸の態度が変わる。

 まるで、季世は幸の神さまだ。


『あなたは死なない。不死病だから』


 そう嘯いて、病人の歓心を買う。

 今回の一件で、幸が益々季世にのめり込んでいるのだとしたら、嫌だなと思う。

 大怪我をしても、死ななかった。

 奇跡的に一命をとりとめた。

 季世の言葉を証明するかのように。

 幸が、ますます、季世にのめりこんでいく。


 季世の言葉に影響されて、危ないことをした。

 季世の言葉を、確かめた。


 そう考えてしまうのは、不自然なことだろうか。にゃー。


「……にゃあ?」


 聞こえた声の、発信源を探す。


 網戸の向こうに猫がいた。

 網戸に身体をこすりつけて、網目から毛がはみ出ている。

 喉の奥をごろごろ鳴らしているのが、はっきりと分かるほどに響く。


 和風なぶち猫だった。

 ぶち模様には、縞柄も混ざっている。


 季世は網戸を開けて、猫を招き入れた。

 ただ、猫は窓のサッシをまたぐように座り込むと満足したように目を閉じた。

 季世は、不用意に触れようとしない。

 だからか、猫も落ち着いた様子だ。

 季世の飼い猫ではないのだろう。でも、よく慣れた関係に見える。


 猫を眺める季世の眼差しが、少し柔らかい。

 はじめて季世に接したきっかけも、そういえば、猫だった。


「好きなの? 猫」


「うん。かわいい」


「近所の猫?」


「そう。多分、お向かいの。このアパートは、ペット禁止だから」


「そっか」


 あの日。

 俺が止めなければ、季世は川に飛び込んでいたのだろうか。


「はじめて会ったとき。川に飛び込んで、溺れて、流されて……それでも、季世は平気だったんだな」


「平気じゃない。怪我をする。苦しい思いも、する。でも、死なない。それだけ」


「俺、ありがた迷惑だった?」


「ううん」


 季世は窓辺に正座して、猫を眺めている。

 猫はしばらくすると立ち上がって、季世の膝に飛び乗った。

 スカートを何度か前脚でほぐすように揉んで、さっきみたいに落ち着いた格好になって眠る。

 季世は猫の身体に軽く手を重ねて、毛を撫でた。


「不死病の患者は、死なないけれど、行方不明になることがある」


 囁くように喋る。季世の声に耳を傾ける。


「それって、誰も見てないところで死んでいるかもしれない、ってこと?」


「分からない。二度と会えなかった人の行く末を、知ることはできないから」


「まあ……言われてみれば、そうか」


「大きな災害や事故に巻き込まれたまま、見つからないことがある。なんでもない日に、唐突に失踪したきりの人もいる。わたしも、あのまま川に流されていたら、そうなっていたかもしれない」


「そうなると……季世は、困る?」


「この町でお世話になっている人もいる。わたしが急に消えたら、困る人もいるかもしれない。だから、そうならなくてよかった。ちゃんと、恵に伝えてなかった。ありがとう」


「礼は、別に、いいけど……」


「居場所が不確かなわたしたちは、社会と繋がることで生きていられる。逆に、繋がりが途絶えたら、わたしたちの生を証明するものは何もなくなる。本来の戸籍上では死亡した扱いになっている人が多い。……わたしもそう」


 返す言葉を思いつけずに、ただ、猫を撫でる季世の指の動きを眺める。

 猫は心地良さそうに、季世の手に頬を押し付けた。

 撫でろ、と催促しているみたいだ。

 それに応えて、季世は猫の顎下から頬を撫でる。


「わたしは、繋がりを失うところだった。つまり、この世界から消えてしまうところだった。きっと、それが、わたしたちにとっての死なのだと思う」


 意外だった。

 季世は、なにも感じていないのだと思った。

 自分の命を粗末に扱うことに、抵抗などないものだと思っていた。


「……それ以外の方法で、死ぬことはない? 例えば、硫酸で溶けたり。コンクリ固めで海に沈んだり。灰になるまで焼かれたり――そうなっても、死なないわけ?」


「試してみないと分からない。それを、確かめる方法もない」


 回答までに間がなかった。

 もしかしたら、誰かに聞かれたことがあった質問なのかもしれない。

 だとすれば、きっと相手は幸だろう。


「わたしは子供の頃、ずっと蔵に閉じ込められていた。飢え死にするはずの環境下で、十年以上生き延びた。食糧も水もなくて、発見されたときは酷い有様だったと聞いた。でも、幸いなことに、その頃のことをよく覚えていない」


「うん。少し、幸から聞いた」


「でも、今も時々、夢を見る。あれから、七十年以上が経った。それでもまだ、わたしは暗闇の中で飢えと孤独に苦しみながら、もがいている夢を見る。あの頃のことを、思い出すの。その夢こそが現実で、今こうしていることが夢なんじゃないかって、疑うことがある」


 季世の、猫を撫でる手が止まる。

 猫は気にせず、季世の太腿に身体を預けて眠っている。


「考えるのは、例えば、恵が言うようなこと――徹底的な方法で肉体を損壊した場合、わたしたちはどうなるのか。実例が、ないわけじゃない」


「実例……?」


「線路に飛び込んだ人がいた。人身事故で肉体のほとんどを失って、手も足も失くして、それでも命があって、意識がある。だけど、人格が保たれているかは分からない。コミュニケーションが、取れているような、取れていないような……曖昧なの。自分の意思を、他人に伝える方法がないだけかもしれない」


 季世は俯いて、猫の毛を撫で付けるようにすいた。

 その手際が不快だったのか、猫が目を開け、季世を見上げてニャアと鳴く。

 季世は少し笑う。再び、猫のお気に召すような手つきで撫で始める。


「意識だけが残るのかもしれない。わたしたちが、肉体を失っても。命の器を失っても。でも――わたしたちに限った話じゃない。人は、死んだらどうなるのか。そんなの、誰にも分からない」


 ――死んでみるまで分からない。


 便利な言い逃れだと思う。

 ショッキングな言葉ばかりを並べて、人に印象を刻みつける。

 納得したくない。その存在を、認めたくなんかない。

 だって、楽観したくなってしまう。

 幸もそうだといいなって、簡単には死なない身体だったらいいのになって、願ってしまいそうになる。

 それが、必死に闘病を続けた幸への、冒涜に思えてしまうのだ。


「わたしたちのことを不死と呼ぶのは、きっと正しくない。多分、とても寿命が長くて、とても死に辛い、というだけ。もっとずっと時間が経てば、死ぬこともできるかもしれない」


「最年長者の年齢が知りたいな。何世紀前から生きてるんだ?」


 半笑いで訊ねるが、季世は答えなかった。

 設定が未定のままなのか。それとも、部外秘というやつなのか。

 ――笑い混じりで訊ねたりして、俺は、季世とまっすぐ向き合うことから逃げたのだ。季世にもそれが分かって、答えてくれなかったのかもしれない。


「……幸があんなことした理由、知ってる? あの日、どうして、季世がそばにいたんだ」


「わからない。本心は、幸から聞いて。わたしは、幸が言うから、そばにいただけ」

 無責任だ、と感じて頭に血が上る。

 そばにいたなら、危険から遠ざけることもできたんじゃないのか。


「幸を止められなかったのか……?」


 季世を責めたい自分がいる。

 止められなかったのは、俺だって同じだ。


 そばにいた季世は、幸の行動を制するような動きをした。

 偶然の錯覚かもしれない。幸のほうが積極的に、自分を傷つけようとしていた。

 でも、季世があと少し幸から離れていれば、そもそも、その手に刃物を持っていなければ、結果は変わっていたかもしれない。


「止められなかった。申し訳ないけれど」


 相変わらず、平坦な声だった。


「幸が、死ぬかもしれなかった」


「幸は死なない。きっと、不死病」


「どうしてそう言えるんだよ。なにか証拠はあるのか?」


「わからないけど、そう思う。みんなと似ているから」


「みんなって誰だよ。他の不死病患者? あの老人ホームにいるのか」


「いる。……会いに来る?」


 訊ねられて、怯んだ。

 歳を取らない、死を迎えない――社会の常識から逸脱した人たち。

 家族を失い、あるいは家族の介護をしながら生きる、取り残されゆく者たち。

 見に行って、どうするんだ。

 どうせ、俺には季世の言う証が理解できないのに。


「そういう、季世の言葉を、幸は確かめようとしたんじゃないのか」


「分からない。幸がぜんぶ話してくれたわけじゃない。でも、幸は怖がっていた」


「……手術のこと?」


 季世は、曖昧に首を横に振る。


「同室の患者さんが亡くなったとき。幸は同じ部屋にいた」


 季世の訥々とした声が語る。

 幸の同室の患者の、死の瞬間の光景だった。


 ――それは、ほんとうに静かな瞬間。


 ただ、呼吸が、聞こえなくなってしまって。

 それで気付く。

 あ、このひとは、死んだ、って。


 直感した直後に、アラームが鳴り響いて、にわかに病室は慌ただしくなった。

 蘇生処置も甲斐なく、彼は亡くなった。

 医師たちが駆けつけたときには、亡くなっていた。


 静かな夜の空気を、微塵も乱すこともなく。


 その瞬間がいつ自分にも訪れるかわからない。


 あとから家族がきて何か言っているのをきく。

 安らかな寝顔でよかったとか、大往生だったとか。

 七十過ぎで、いつもぼうっとしたおじいさんだった。

 家族の誰が誰かも、もう区別がついていないような。

 だから、これが、彼らにとってはいい区切りなのだろう。


 幸は思う。

 

 死の瞬間一人ぼっちにされてとても寂しかっただろうな。

 みんな、知らなかったんだから。

 この人が死んだ瞬間を、見過ごしたのだから。


 そうやって、彼に関わる人間が、偶然にも一瞬の隙を作り、彼のことを忘れた瞬間が合致したとき――すべてに見放された瞬間に、人は、死ぬのかもしれない。


 その瞬間が、いつ、自分にも訪れるのか。

  病室で過ごしていると、いつも不安だ。

 

 ――外の世界では、みんなどう過ごしているだろう。

 忙しくて、病室にいる僕のことなんて、思いだす暇もないんじゃないだろうか。

 時々、義務のように思い出して、病院に足を運ぶノルマをこなして、日常へ回帰していくのだ。僕はとっくに、日常の一部ではなくなっている。

 このまま、いつか零れ落ちていくのかもしれない。

 僕が失ってきた膨大な時間のように。

 

 もういやだ、と幸は言った。


 それは、俺には、信じられないことだった。


「会って、話を聞かなきゃ……分からない」


「うん。会いに行くといいと思う」


 何がきっかけだったのか、季世の膝で眠っていた猫が起き上がり、大きな欠伸をした。軽やかな身のこなしでサッシを越えて、外へ帰っていく。


「季世も一緒に来てよ。幸、喜ぶよ」


 どうして、誘いの言葉が出たのか、自分でも驚いた。

 幸を少しでも元気付けたい気持ちは、ある。

 でも、季世が幸に近づくことを危険視する自分も同居している。

 俺の主観を抜きにすれば、幸は、季世に会えるのが嬉しいに違いない。

 季世には分からないかもしれないけど。


 俺の目には、はっきりと分かる。


 季世は幸の特別だ。

 他の誰とも扱いが違う。


 弱気な自分が、季世を誘ったのかもしれない。

 俺一人で行って、歓迎されなかったときのための保険なのだ。

 季世が一緒なら、幸は俺を受け入れてくれる。俺は季世のバーターだ。

 我ながら、卑屈で卑怯な考えだった。


「いつ?」


 季世はそう問いかけた。


 それが、つまりは季世の回答だった。

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