第3話「あ、そういえばアレってどうした?」

「あ、そういえばアレってどうした?」

フードの注文もある程度落ち着いたキッチン。

俺は同僚にふと気づいたように尋ねてみた。

「あれって・・・なんだっけ?」

普段から色々と行動派のこの男は、本人が何かしたうちのカテゴリから

俺から質問された内容の意味を考え始める。

「この前好きな奴が出来たっていって、遊びに行くって言ってたじゃん。色々と適当な遊び場教えたじゃん」

「あぁ、それか!」

おぉう、とやけにデカいリアクション取りながら、その後は萎むように元気を無くしていく。

「いや、お前に教えてもらったカフェとか色々良かったんだけどさ」

「おう」

「最後に彼女からここに行きたい!って言い出してついて行った飲み屋がさぁ。結構男前な所で・・・」

「おっ?・・・おう。それで?」

「その男前な飲み屋に居合わせた、男前なおっさんに口説かれてそのままいなくなっちまった・・・」

「は?」

「年上好きなんだとよー。1週間後には新しい彼氏になってた。そのおっさん。」

「お前なぁ・・・」


行動派でありながら、妙に空回りするような同じバイトの同期。

やつは大学生で、俺はフリーター。

歳は同い年なのもあって、仕事終わりにたまに遊びに行くなど色々と気があった。


「パンケーキとホットサンド、注文入ったからよろしくー!」

そして、もう一人の同期。やつと同じ大学に通ってる女の子。

彼女を含めて3人で遊んだりするのが俺の日常の楽しみでもあった。


「わかった。・・・おい、ほら、元気だせよ。またなんかあったら相談に乗ってやるから」

「あー、やだやだ。折角心のタンスの奥にしまってたのに。最後は上手くいかないんだよなぁ・・・」

とぼとぼと奥へ歩き出して準備を始める同僚。こっちも調理の準備を始める。

「何かあったの?」

「あぁ、この前言ってた女の子とはうまくいかなかったんだと。」

「!?・・・へっ、へー・・・そっかぁ。」

やつも落ち込んだり沈んだり判りやすいが、こっちも判りやすい。

「・・・チャンスなんじゃねぇの?」

自分の担当するパンケーキを調理しながら、何でもないことのようにさらっと尋ねる。

「う、うん・・・・・・ん!?・・・」

「いや、もう少し上手く隠せよ。」

普段だとこっちの目を向いて話してくるが、自分のキャパ超えたりすると視線を合わせようとしなくなる。

いつもの事だ。

「まぁ、そうだよねー。いつも一緒に遊んでるし、判っちゃうよね。」

「まぁな」


他の同僚が暇してるのか、フロアには戻らず俺たちの料理が出てくるのを待っている。

「ねぇ・・・ずっと友達でいた子を好きになったことってある?」

「あったな」

生地のデコレーションを黙々とやりながらそう答える。

「その時ってどうしたの?」

「告白しようと思ったが、そいつもまた別に好きな人がいて、言わずに終わった。」

「・・・そっかぁ。」

「今ならあいつもそう言う遠慮は入らないんじゃないか?」

いつも通り淡々と、山盛りになった生クリームホイップにせっせと果物を載せ、最後にフルーツソースをかける。

「まぁ、変な苦い思いをするよりは早く・・・」

「はいよー、ホットサンド・・・おっ?・・・・・・何?」

そうしてる間に料理を持って来たお気楽な奴。

「「いや、別に」」


持って来たホットサンドと俺のパンケーキを持って行ってフロアへ消えて行く彼女。

「あのさー。」

俺は調理に使った食器などを片付け始める。

「どうした?」

「なんかあった?」

「いや、特に何も無いけど。」

普段通りに黙々と働く俺を黙って見ながら

「いや、お前焦ったり動揺する時って、盛るじゃん?」

「盛る?」

「あいつの言ってたパンケーキって普通のだろ?さっきの作ってたの、うちのチャレンジメニューじゃん」

「・・・・・・・」


相手から見た自分というのは大体どの人間も判りやすいものだ。

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