第1話
名もない女の子。
その紙の中で微笑む彼女の頭を指で優しくなぞりながら呟いた
「三次元にいてくれたらなぁ」
という一言。
その直後のことである。
紙はまばゆい光に包まれた。
あまりの光度に目の前に手をかざしつつタイヤ付きの椅子とあり、座りながら思い切り机を蹴る。
本能的に壁の方まで一気に距離を離した俺は薄目で事の顛末を見守った。
そのうち光は徐々に人の形を形成する。
多分今の俺の顔を見たら心底驚いた表情だっただろう。
現に口から出る「言葉以前の意味を持たない音」は
「へ‥‥!?」「ふえぇ‥‥?」という間抜けなものだったと思う。
俺がそんな間抜けな姿で驚いている間にも光は少女らしき形を形成して行く。
やがて光は光度を失い消えた。
そしてそこに立っていたのは正に
「俺の考えた最高に可愛い女の子」
だった。
「もしかして私を創ってくれたのは貴方?」
光が消えた跡に立っていた女の子は、閉じていた目をゆっくり開けると、口元に微笑みをたたえ、鈴がなる様な美しくも可愛い声で俺に問いかけて来た。
状況に追いついて行けていない俺は、頭を混乱から復帰させ順序立てて現状整理をする。
創る?創作って事か?女の子を?
もしかしてこの状況、
‥‥アニメでよくある展開って事か!
ってことは創ったのは俺で間違えないな。
楽観的思考(現実逃避ともいう)で思い立った俺は二つ返事で答えた。
「おぉ、ぉれだと思ひましゅぅ‥‥」
‥‥忘れてたわぁ。
しかし残念俺はコミュ障だった。
それに相手は俺の考えた最高に可愛い女の子である。
平たく言えば俺の超好みな女の子という訳だ。
これで噛まない訳がない。
俺の前に立つ可憐な美少女は可愛らしく小首を傾げる。
微笑みをたたえたまま。
訝しむでも気持ち悪がるでもないその反応が逆に俺の心を抉った。
泣きたくなる目元を抑えながらもう一度言い直す。
「お、俺だ、と思いますよ」
今度はうまく言えた、と思う。
少しどもったがな。
今度はうまく伝わった様で、少女は満足そうに軽く頷くと俺の方にゆっくりと近づいて来た。
そして俺の前に立つと俺の顔を覗き込む。
その際、彼女の肩にかかる長い髪がはらりと落ちた。
背丈的には俺よりも低そうだが、座った状態の俺よりも低い訳なんて事はなく、必然的に彼女の髪は俺の顔にかかる。
何か俺の人生には一生縁のなさそうな非合法とも勘ぐってしまうような甘美な良い香りに包まれ俺の鼓動ははち切れそうなまでに達した。
そして彼女は吐息をつくような声で言ったのだ。
「私に命を授けてくれてありがとう。お兄ちゃん」
「!?!?!?!?」
やっと少し状況が整理できていたところに投じられた一言は、しかし俺の脳をまた混乱に導くには十分すぎるものだった。
お兄ちゃんだと!?
オタクが年下の美少女に呼ばれたいわれたい呼ばれ方ランキング(俺調べ)1位の呼称じゃないか!
混乱と興奮を一緒くたにしたような心境の俺をよそに、さらに少女は続ける。
「私、この家にお兄ちゃんと一緒に住んでもいいのよね?」
どうやら彼女の中ではこの家に一緒に住むことになっているようだ。
どうしてこうなった。
‥‥確かに他に住むところはないけれど。
というかこの体勢、俺の心臓に悪い。
こんな美少女がずっと目前にいるのだ。
少し動けばともすればおでこが当たりそうな距離に。
まぁそれはさておき実際俺は一人暮らしだ。
親がいたら状況は詰んでいたと受け取っていいのだろうか。
うまい言い訳も思い浮かばないし。
「あ、あぁ‥‥構わないけれど‥‥」
だから俺はYesと言ってしまったのだ。
それに何よりこの子に「お兄ちゃん」と言われるのがたまらなく嬉しかった。
いわゆるタジタジである。
メロメロともいう。
美少女が妹(仮)になったのだ。
オタク気質の俺としてはこれ以上なく夢広がる状況という訳だ。
ここでNoと言う理由もあるまい。
‥‥それに、俺が創造してしまったらしいのだ。
これで放置というのは良識のある一人間としてありえない行動でもあるのだ。
俺の答えを聞いた少女前屈みの態勢から勢いよく離れると、花が開くような笑顔をたたえて嬉しそうに言ったのだ。
「ありがとう!お兄ちゃん大好き!」
俺は顔を隠して悶絶した。
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