終わりなき任務 2/2
【赤】
PSの電源を入れ、起動を待ちながら今回の勝負のルールを話し合う二人。
「てんちょうはどのへんまで進むことができます?」
「えーとそうだな、確かいつも三面くらいまでなら進んでいたと思うな」
「じゃあこうしましょう。二面までのハイスコア勝負。コンティニューも自由で、とにかく二面のボスを倒すところまでは進むこと。どうでしょう?」
「いいね! それならまだ勝ち目はありそうな気がする」
「ふふふ、簡単にはやられませんよ……!」
双方合意。画面で『首領蜂』のタイトルロゴが表示されるとともに、激しくかつダンディな声で「ドンパァチ!!」とシャウトされている。
「お、これこれ。初代はこの声だよねやっぱり」
うんうん、とポニテを上下に揺らし旭川も同意。
「さて、どちらからいきましょうか。あ、てんちょう、『首領蜂』はしばらくプレイしていないんですよね」
「そうなんだよね。いろいろ思い出したいから、旭川くん先攻で頼む」
「りょうかいです!」
待ってましたとばかりにアーケードコントローラーを手元に引き寄せ、ガチャガチャとスティックの感覚を確かめる旭川。
セレクトボタン、クレジット投入。再度聞こえるダンディなシャウト。
「では、出撃します!」
パチン、と小気味よいボタン音。
旭川の選択した機体はType-A。スピードはあるが直線的なショットしか出せないタイプだ。
母艦から赤い機体が飛び出す。AREA1スタートだ。
旭川の操る機体がスタート地点直後の蜂アイテムを二個、回収する。
決まった位置でショットを撃った直後にレーザーを撃ち込むと、蜂アイテムが出現し、これを連続で取り続けることでハイスコアを狙えるのだ。
「うわ、あんな最初のところに蜂あったんだ!」
「あれ、知らなかったんですか? 敵に塩を送る形になってしまいましたね」
ぺろっと舌を出す旭川。一方の大平は胸をなで下ろしている。
「後攻にしてもらってよかった……」
その後の道中、旭川はショットを小出しにして出現する敵を貯め、一気に倒すことでコンボ数を稼ぐ。短時間の間に連続して敵を倒すことでコンボがつながり、コンボ数が多いほどにボーナスが入るため、蜂アイテム集めとともにこのゲームのハイスコア狙いの常套手段だ。
「Type-Aってコンボつなぎづらそうなのに、よくやるなあ……」
「慣れてくるとこっちのがつなぎやすいんじゃないですかねー。ショットで余計な敵を倒すこともないですし」
「それシューティングがうまいからそんなこと言えるんだよなあ」
危なげなくボスに到達。ボス前に大量に隠されている蜂アイテムもしっかり回収していく旭川。
そしてボスまでもショットを出し惜しみしてじわじわとダメージを与えていく。
「ん、なんでボスももったいぶって倒さないの? コンボとかもう関係ないでしょ」
「まあまあ、見ていてくださいよ」
しばらくボスとともに画面がゆっくりとスクロールしていき、それに合わせて画面端でショットからのレーザー。蜂アイテムだ。
「あー! ボスの後半にも蜂出てくるのか……でも取りづらそう」
「そのためのじわじわ削りです。あんまりいじめすぎると発狂されちゃいますから」
「なるほど」
このAREA最後の蜂アイテムを取得し終えた旭川は、ボス中心部を一気にレーザーで炙る。
ほどなくして、ボスが爆風に包まれステージクリアとなる。
「は、80万点……きついなー」
「いやいや、結構コンボ途切れちゃったのでまだまだですよ」
「まじか……大丈夫か、俺」
続けてAREA2開始。これまた危なげなく蜂回収&コンボ稼ぎが続く……と思われたが。
中盤にさしかかったあたりで、削り具合を誤ったのか、敵の中型機の流れ弾が被弾。旭川、痛恨の1ミス。とっさのボムも間に合わなかったようだ。悔しそうにボタンをぱちぱち叩く。
「ああっ! 削り足りなかったのかな……」
「おお……まだ俺にも勝ちの目が残っているのか!」
しかし、旭川の犯したミスはこれっきりで、難なくボスまで撃破。AREA2終了の得点は――
「201万、ですね」
ふうっ、と息を吐く旭川。
「べ、勉強になりました旭川先生……」
【青】
タイトル画面に戻り、旭川がアーケードコントローラーを大平の前にずずいと差し出す。
「さて、てんちょうの番ですよー!」
「うーん、緊張するな……」
大平の自機選択はType-C。広範囲のショットを持つが移動速度は最も遅い。敵の殲滅はしやすいため、初心者向けの機体だ。
先ほどの旭川と同じく、母艦から射出される青い機体。
スタート地点すぐの蜂アイテム二つを狙うが、移動速度の遅さから片方の取得が間に合わなかった。
「おっと、スタートからなかなか痛いミスですねー!」
「いいんだ、俺的に一個だけでも増えたのなら御の字だ」
「そういえば、Type-Cだとそもそも両方取れたんでしたっけ……?」
「取れないかもなんだ!? ひどいな!」
道中は調子よく蜂アイテムも回収し、持ち前の広範囲ショットでうまいことコンボをつなげていく。
「お、さすがはType-Cですね。コンボつながりやすい」
「旭川くんに対抗するにはこいつに頼るしかなさそうだったからね」
途中ヒヤリとする場面は見受けられたものの、なんとかボスまでノーミスで到達。
「よし、さっき覚えた蜂ももらっていくぞー」
「さっそく実践ですね。その姿勢は評価に値しますよ!」
旭川の行動をまねて、じわじわとボスを削りつつ蜂アイテムの出現を待つ。
「簡単そうに見えたけど、ただ避け続けるっていうのはなかなか難しいものだな」
「とか言いながら、しっかりやれてるじゃないですかてんちょう!」
「かなり必死なんですけど……っと、取った! 倒すぞー!」
最後の蜂を回収し、ボス正面へ戻る大平。
わずかばかりのレーザー撃ち込みで、ボス撃破となる。
「さてさて、得点はどうでしょう……」
「67万点、か! まだ、まだ届く位置か!?」
AREA2に突入。AREA1に比べて敵の数が増えてくるが、Type-Cの広範囲ショットでかなり楽になっているようだ。
「おー、つなぎますねー」
「狙ってるわけじゃないんだけどね……さすがType-C」
調子よく進む大平であったが、なんと、旭川と同じ中型機で被弾してしまう。
「そんなところまでまねなくても!」
「偶然だって! たまたま!」
なぜかうれしそうな旭川である。
その後の展開も旭川と大差なく、無事にボスまで撃破。
「さあ、どうだ……?」
「おおおっ!?」
ボムのストックが得点に換算され、最終的に表示されている得点は――199万点。その差、2万点であった。
【異星人】
「はあー負けた……。やっぱり強いな旭川くんは」
「そう簡単にはやられませんよー。シューターとして!」
勝負が終わったので、イスから立ち上がり、えへん、と胸をはる旭川。
「でも、てんちょうも今回はなかなか手応えがありました。2万点差ってかなりきわどかったですよ! レトロなあたりになるとさすがですね」
旭川はカウンターの中でコートを着込みながら、うーん、と考え、ちょっとにやつきながら一つの決断を下す。
「では今日の健闘に免じて、一つ、アンロックです。『勝負以外でも遊びに誘える権利』が解放されました!」
ぴこーん! と画面端にトロフィーが表示された……気がした。
「おお! 地味にうれしいな。でも、勝負なのにそんな甘いこと言ってていいものなのかい?」
「……地味に、……甘い、ですか……」
大平の言葉を小さく繰り返し、先ほどまでゆるんでいた旭川の表情が固まる。
カウンターからカバンをひったくってすたすたと出口へ向かう。
「おつかれさまでした。……わかってないです、てんちょうは」
顔も見ずに帰っていく旭川。
コロッと変わった旭川の様子に呆気にとられたまま、大平は独りでゲームコーナーに立ち尽くしている。
(なんだ? 急に……、あ、俺のさっきの反応か! しまったな……)
つい数分前までゲームをプレイしていた席にドカッと座り、頭を抱える。
目の前の縦置きにされたディスプレイでは、異星人と称した自機がデモンストレーションを行っている。
(ふうう……。乙女心というのは難しいものよ。まるで異星人……ああ、首領の言う異星人の侵略か。さしずめ俺は侵略を受けている軍隊ってところだな)
そして、どれだけ戦っても撃ち落とせない
大平は机に置かれた『首領蜂』の説明書をめくり、大きく息を吐く。
(異星人の襲撃の度により強力になる軍隊、ね)
意を決して立ち上がり、カウンターに置いてあるスマートフォンを手に取る大平であった。
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【蛍の光】
蜂によってさらなる実は結ばれるも、収穫にはまだ至れないようで……。
『首領蜂』一周目エンディングの一節からの引用で本日は閉店とさせていただきます。
「首領、この任務は一体いつまで続けるのですか?」
「……それは、君達次第だ。」
またのお越しをお待ちしております。
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